17. 伝送路となるケーブルはインダクタンスと考えてよいか?

高周波を対象にした回路シミュレーション(Sim)に於いて、適当な信号ラインのモデル情報が無い時に簡易的にインダクタンスを当てて計算する場合があると思います。特に、回路基板上の部品間の短い配線に対してとりあえず1nH/mm程度を当てて計算する場合があります。Sim対象の周波数帯にもよりますが、ごく短い配線であればそのSim結果と実測の結果との比較において大きな誤差要因となる可能性は低いと思われます。

しかし、回路基板上でも明らかに長い配線や回路基板間を接続するケーブル、更に機器と他の機器等とを接続する信号ケーブルや電源ケーブルを含めたSim検討をする際には、さすがにインダクタンスのみで代用することは無理があると思います。

一般的に伝送線路(信号ラインや電源ライン)は下記のようなLC(無損失ライン)を使ってモデル化します。

ただ、EMC関係の方々の中にはそういうことを理解しつつもライン・ケーブルをインダクタンス(誘導性)と決めてかかる方もいるようで、ノイズ対策の指導コメントとして、“ケーブルのような長い伝送路が接続される回路基板側の受けの部分は先ず接地したCを接続させてからシリーズでLを接続させるLCフィルターを付加すべきで、シリーズのLを先にケーブルと接続する構成にすると接続した部品のLがケーブル側のL成分に取り込まれてしまい、LCフィルターとしての効きが劣化する”、等というようなものもありました。L、Cの各部品の定数にも関係しますが、一般的な性質として述べるのには難があるように思われました。

その理由として、ケーブル(伝送線路)があるインピーダンス(Zi)に接続されている場合で、ケーブルの伝送路インピーダンスがZ0である場合、それらのインピーダンスの大小関係についてみておく必要があるからです。

先ず、①Z0>Ziの場合で、下図のスミスチャートで示すように、ケーブルの長さの変化に伴い誘導性側で右回りの軌跡(赤線)を示します。この赤線の軌跡は対象周波数のλ/4(スミスチャートの半周)まで誘導性側にあり、この誘導性即ちインダクタンス性となるケーブルは、短い内はシリーズ接続のL値で近似できます。但し、ケーブルが長くなるとやはりL値だけでの近似は困難となります。しかし、例えば100MHz帯における波長(≈3m)はそれなりに長いので、機器内で使用されるケーブルを想定した場合はインダクタンス性とする考え方も良いでしょう。

しかし、②Z0<Ziの場合は、ちょっと事情が異なります。下図のスミスチャートで青線の軌跡を示すのです。即ち、ケーブルの長さの変化に伴い容量性側で右回りの軌跡を示すのです。この容量性即ちキャパシタンス性は、ケーブルが短い内はシャント接続(接地C)のC値で近似することになります。また前述と同様にケーブルが長くなるとC値だけでの近似は困難となります。この青線の軌跡も対象周波数のλ/4(スミスチャートの半周)までケーブルは容量性となります。従って、この場合ではケーブルをインダクタンス性とするのは適切ではない、ということになります。

これは高周波回路学からの知識ですが“知っている”のと“知らない”では問題解決の上で費用・時間に大きな差が出てきます。

EMC対策の現場では、必死になってあの手この手の対策を施して、何とか上手く行きそうな対策方法を見つけた後に、後付的に適用した対策の理屈付けをしがちでしょう。特に、思い付き的に原因を決め付けて対策検討を始めると、対策が行き詰まり、無駄に時間を浪費する状況に陥ります。対策作業に入る前、できれば設計段階で入手可能な情報を得てから対策作業に入った方が、最初は時間がかかるかもしれませんが、結局短い時間で解決に至ることができるものです。

こういった問題解決の情報源として当社が用意しております、

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