19. グラウンドループ➡ノイズ放射・・・過剰な妄想かも!

EMC関連の文献では特に低周波帯(といっても30MHz帯といった位でしょうか)でのノイズ放射の原因としてグラウンドループを指摘されることがあります。

このグラウンドループは下図にある様に、装置Aと装置Bがケーブルにより電源及び信号を送受する場合で、且つ装置Aと装置Bがそれぞれ接地(アース)している場合に例えば装置Aから出たノイズの電流がケーブルのGND電極を介して装置Bに流れ込み、更に装置Bの接地端子を通って装置Aの接地端子に戻る(ループを構成する)ことによりノイズが空間に放出されるという考え方です。

このノイズ放射を回避するために、①装置Bの接地をしない、②装置Aと装置Bそれぞれの回路間のGND接続を無くすことはできないですが、少なくとも装置A、Bそれぞれの金属シャーシはGND電極(シールド等)で直接接続させない、といった構成を推奨しています。

こういった構成でノイズが放出されるのであろう、という説明は確かにあり得そうな気がします。しかし、よく説明図を見てちょっと考えるべき点もあります。

I.接地(アース)とは所謂0Vにする点であって、図にある様に装置A、Bの接地箇所で0V(工場・施設内では金属物で接続されるでしょう)で等電位となります。仮にノイズが装置Aにあった場合にどのようにしてケーブルのGND電極に出て装置Bに伝達していくのでしょうか?少なくとも接地電位で囲まれたループ上にノイズとなる励振源があるべきではないか、と考えます。

この励振源については、下図のノーマルモード伝送時にコモンモードのノイズ源が発生するものとして説明されます。しかし、このノイズ源の出現も“何故?“、と疑問があります。しかし、”そういうもの“というのが今までのEMC解説モデルで行われてきました。

II.仮に接地によるループができたとして、ノイズ放射としてループアンテナを想定する方も居られるでしょう。しかし、ループというのは磁界生成(又は検出)する機能しかなく、電波を送出する能力は無いのです。何故なら、磁界に合わせて電界を生成することができないからです。(詳細は当社セミナー“EMC設計 概要~MBD”で解説しております。また、当社ブログ“ループ状配線 ➡ノイズのアンテナは考えすぎ”でも解説。)上図にある様に装置A、Bの接地点で同電位、ケーブルの各接続箇所でも同電位なので電界は生じようがないのです。

ただ、上記それぞれの箇所を接続している“導体には抵抗があるので流れる電流に対して電圧(電界)を持つ”と考える方もいるかもしれません。しかし、その電流を流すためには起電力となる電源がループ上のどこかになくてはなりません。仮にもし微弱な(ノイズ)電流が流れるとしても導体の抵抗により減衰され電流は略0の状態になるでしょう。

今まで述べてきたように装置A、Bによってグラウンドループが構成されたとしても簡単にノイズ放出が起きるというものではないのです。しかし、実際の現場ではグラウンドループが問題なのではないか、と思いたくなるケースを経験したEMC関係者が多く居られると思います。

実は、この問題は装置A、B間を接続するケーブルのGNDラインの処理の仕方に問題があるのです。この課題の背景及びケーブルのGNDラインの処理の仕方の詳細を当方のセミナー及びテキスト“EMC設計 概要~MBD”の中で解説しております。

実際、私も装置(又は機器)を接続するケーブルによる不要輻射の問題をいくつか経験しましたが、全く問題ない場合もあったりしてその違いを見比べ、検討してまいりました。同様な経験をされている方々は是非当社のセミナーを聴講して頂きますと考え方の整理がつくかと思います。

参考記事

21. 機器・装置間の接続ケーブル・・・シールド線(GND)は両端接続が基本!

24. フレームグラウンドにノイズ電流ッ!、、、普通に流れます。

18. 1点接地と多点接地、何が違う?

EMCのセミナーに参加しますと講師の方からEMC設計として回路基板の構成や実装設計に関して、1点接地と多点接地について説明を受けます。概略として“低周波の回路では1点接地、高周波の回路では多点接地をしてください”と言われます。そしてその周波数対象の変わり目については、MHz帯(特に10MHz位でしょうか?)以上が高周波回路の対象と説明されます。何故なら、高周波になると基板設計における配線長がノイズとなる周波数の波長に対して数分の一波長のレベル(分布定数回路レベルの扱い)になるため等と解説されます.

確かにそのように考える必要があるのだな、と思いつつも、上記の説明は“分かったようでよく分からない”感が漂います。そもそも回路基板設計上で“1点接地と多点接地”を考慮する場面があるか?です。実際の回路基板の設計(A/W)での接地デザインとしては、各IC部品の電源や信号におけるGND電極に対する接続、多層基板等で配線の両脇にGNDパターンを設定してそのGNDパターンを基板の層内に設けたベタのGNDパターンにviaでたくさん接続するということ位ではないでしょうか?更には基板内の気になる導体パターンがフローティングにならないように内層GNDパターンにvia接続させるといった程度ではないかと思います。よって、“1点接地と多点接地”を殆ど意識することはないのです。

過去のEMC関連のテキストでは、低周波での多点接地のよくない点について、全ての回路からの接地電流が共通接地インピーダンスとなる接地面を流れることになるので避けるべき、といった考え方があったようです。また、多点接地を行うに当たっては高周波の各回路の接地側の配線を極めて短くする(インピーダンスを小さくする)よう指導しています。実際の基板設計において、“言うは易し行いは難し”の感じがします。

この考え方の背景には、理想的なGND(システムGND: DC~高周波で電位0V)があると言う考え方に立ち、実際の回路基板設計をそれに近づけるためのGNDパターン設計及びそれと接続するためのGND配線設計があるのでしょう。回路学的な考え方を突き詰めた結果“1点接地と多点接地”の概念(イメージ)を作り上げたのではないかと思います。しかしながら、その考え方には高周波回路学的な思考が欠けており、また電磁気学的な検証も全くないのです。

そもそも、機器の実装設計において理想的なGNDなどはありません。そのようなものが無いのにその理想に近づけるための設計を目指すのは無意味です。高周波回路学では、配線(伝送線路)は所謂、活線極とGND極の一対で成り、交流(特に高周波)ではGND電極は常に0Vでなく、活線に対する対向極なのです。伝送路上を伝播する周波数はその波長(λ)に応じた伝送路の各箇所(例えばλ/4、λ/8、、)における活線とGND間の電圧及び活線又はGNDに流れる電流は異なる値になります。更に、電流が流れるということは活線側に瞬間的な電荷があり、その対向極のGND側はその反対極の電荷を瞬間的に有します。電磁気学的には電荷を有するということは電位を持ち、即ち活線とGND間の電位差が電圧になるので、GND側は常に0Vではないのです。また、GND側の電極をベタパターンで形成したとしてもGND側に流れる電流は配線パターンとなる活線に対向した箇所に限られ、ベタパターン全体を流れる訳ではありません。この状況は電磁界Simで確認することができます。当然のことながらベタパターンをいくら広くしてもその状況は変わりません。広いベタのGNDパターンが理想的なGNDに近づくと信じている方もいますが、それはイメージです。

以上のことから、回路基板における配線は活線とGNDが常に1対の形態で構成されることが重要であって、GND側の配線のみを意識して短くする必要は無いということになります。実際の設計において、回路基板上に配置する部品(特にIC部品)は設計者によって製品の仕様を満足するように配置して、信号ライン、電源ラインをできるだけ短くすることを意識して設計されていると思いますが、それでよいのです。ただ付け加えるとすれば、“活線とGNDが常に1対の形態”が連続することを強く意識して頂きたいです。これらの詳細については当社のテキスト“WD提案 Part-II”で解説しております。是非、ご参考にして頂きたいです。

上記においては、多層基板内に構成されるベタのGNDパターンを例に記述しましたが、単層基板及び両面2層基板についても同様なことが言えます。“WD提案 Part-II”はその方法についてもご紹介しております。

話は最初に戻り、“1点接地と多点接地”の違い、取り扱いについてですが、かつての回路基板設計におけるイメージであって真面目に受け止めるような概念ではないと思われます。この背景に関しては当社のテキスト“EMC設計 概要~MBD”の中でも解説しております。こちらも是非、ご参考にして頂きたいです。

従いまして、“1点接地と多点接地”はあまり気にすることなく回路基板のA/W設計に取りかかるのがよいでしょう。

※関連ページ

22. EMC対策、グラウンド(GND)に関わるイメージに要注意!

21. 機器・装置間の接続ケーブル・・・シールド線(GND)は両端接続が基本!

17. 伝送路となるケーブルはインダクタンスと考えてよいか?

高周波を対象にした回路シミュレーション(Sim)に於いて、適当な信号ラインのモデル情報が無い時に簡易的にインダクタンスを当てて計算する場合があると思います。特に、回路基板上の部品間の短い配線に対してとりあえず1nH/mm程度を当てて計算する場合があります。Sim対象の周波数帯にもよりますが、ごく短い配線であればそのSim結果と実測の結果との比較において大きな誤差要因となる可能性は低いと思われます。

しかし、回路基板上でも明らかに長い配線や回路基板間を接続するケーブル、更に機器と他の機器等とを接続する信号ケーブルや電源ケーブルを含めたSim検討をする際には、さすがにインダクタンスのみで代用することは無理があると思います。

一般的に伝送線路(信号ラインや電源ライン)は下記のようなLC(無損失ライン)を使ってモデル化します。

ただ、EMC関係の方々の中にはそういうことを理解しつつもライン・ケーブルをインダクタンス(誘導性)と決めてかかる方もいるようで、ノイズ対策の指導コメントとして、“ケーブルのような長い伝送路が接続される回路基板側の受けの部分は先ず接地したCを接続させてからシリーズでLを接続させるLCフィルターを付加すべきで、シリーズのLを先にケーブルと接続する構成にすると接続した部品のLがケーブル側のL成分に取り込まれてしまい、LCフィルターとしての効きが劣化する”、等というようなものもありました。L、Cの各部品の定数にも関係しますが、一般的な性質として述べるのには難があるように思われました。

その理由として、ケーブル(伝送線路)があるインピーダンス(Zi)に接続されている場合で、ケーブルの伝送路インピーダンスがZ0である場合、それらのインピーダンスの大小関係についてみておく必要があるからです。

先ず、①Z0>Ziの場合で、下図のスミスチャートで示すように、ケーブルの長さの変化に伴い誘導性側で右回りの軌跡(赤線)を示します。この赤線の軌跡は対象周波数のλ/4(スミスチャートの半周)まで誘導性側にあり、この誘導性即ちインダクタンス性となるケーブルは、短い内はシリーズ接続のL値で近似できます。但し、ケーブルが長くなるとやはりL値だけでの近似は困難となります。しかし、例えば100MHz帯における波長(≈3m)はそれなりに長いので、機器内で使用されるケーブルを想定した場合はインダクタンス性とする考え方も良いでしょう。

しかし、②Z0<Ziの場合は、ちょっと事情が異なります。下図のスミスチャートで青線の軌跡を示すのです。即ち、ケーブルの長さの変化に伴い容量性側で右回りの軌跡を示すのです。この容量性即ちキャパシタンス性は、ケーブルが短い内はシャント接続(接地C)のC値で近似することになります。また前述と同様にケーブルが長くなるとC値だけでの近似は困難となります。この青線の軌跡も対象周波数のλ/4(スミスチャートの半周)までケーブルは容量性となります。従って、この場合ではケーブルをインダクタンス性とするのは適切ではない、ということになります。

これは高周波回路学からの知識ですが“知っている”のと“知らない”では問題解決の上で費用・時間に大きな差が出てきます。

EMC対策の現場では、必死になってあの手この手の対策を施して、何とか上手く行きそうな対策方法を見つけた後に、後付的に適用した対策の理屈付けをしがちでしょう。特に、思い付き的に原因を決め付けて対策検討を始めると、対策が行き詰まり、無駄に時間を浪費する状況に陥ります。対策作業に入る前、できれば設計段階で入手可能な情報を得てから対策作業に入った方が、最初は時間がかかるかもしれませんが、結局短い時間で解決に至ることができるものです。

こういった問題解決の情報源として当社が用意しております、

EMC設計 MBDでDX! 技術&学術

ESD設計 技術&学術

を是非ご活用下さい。

16. GND-Via その配置間隔にルールは無い

多層の回路基板のA/W設計において、信号ライン、電源ラインの両サイドにガードパターンまたはGND電極の塗り込みと称してGNDパターンを配置し、回路板内部のベタ電極との導通をとるためにGND-Viaを配置します。このGND-Viaの配置間隔についてA/W設計の関係者から“できるだけ短い間隔で”とか、“同一のVia間隔を繰り返さないように”とか、“ノイズ周波数の波長の??分の一波長の間隔で”とか、・・・“まー、根拠があるのか”と思われるアドバイスがあったりします。
私の現役時代にGND-ViaのVia間隔に関して電磁界Simで検討したことがありましたので、少し解説します。先ず、そのモデルの例として、多層基板で形成される信号ラインでその両サイドに配置するGNDパターンを有し、その下側の配線層にGNDベタパターンを設定して、所謂高周波回路で言うところのグランド-コプレナー伝送路(グランド付CPW)として、信号ラインの両サイドに設定するGND-Viaを列配置しています(図1参照)が、それぞれのGND-Viaに流れる高周波電流についてSim検討してみました。


その結果、信号源側及び負荷側に最も近い両サイドのGND-Viaにのみ高周波電流が流れ、その他のGND-Viaには殆ど高周波電流が流れない(-60dBより低いレベル)という結果でした。即ち、信号源側及び負荷側に最も近い両サイドのGND-Viaによって、信号ラインの両サイドのGND電極と基板内部のGNDベタパターンとが同電位になり、それ以外のGND-Viaの箇所での前記GND電極間では電位差が生じず、その箇所でのGND-Viaでは高周波電流は流れなくなるのです。
この傾向はGND-Viaを減らしても(信号源側及び負荷側の中間の両サイドに各1個)、また増やして(Via間隔を密に)も変わらず、基本的には信号源側及び負荷側に最も近い両サイドのGND-Via以外は無くてもよいという傾向でした。また、この時のモデルからの不要輻射に変化が起きるか(そもそも不要輻射自体が小さい)も検討しましたが、その輻射傾向に変化はないようでした。
上記のGND-Viaの間隔を密にすることを指摘するA/W設計の関係者がその理由として、GND-Viaの間の距離によりラインを通過する信号による定在波の発生の要因になることを挙げたりしますが、定在波は信号ラインとGND電極の電極対を通過する信号の電圧・電流に対して生じるのであって、GND-Viaは信号ラインの両サイドのGND電極と基板内部のGNDベタ電極を単に同電位で接続しているだけなので、そのGND-Viaがどのように定在波の生成に寄与するのか、説明しづらいことではないかと思われます。
従って、信号ラインのA/W設計として、信号源側及び負荷側に最も近い両サイドのGND-Via以外はあまり気にしなくてもよい、というのが当方からA/W設計者へのアドバイスです。但し、図2に示すように信号の授受を行うIC間の信号ラインに関しては、信号の送信側・受信側双方において、各ICの送受信端子の直近の両サイドにGND-Viaを形成(送受信のIC端子の隣の端子がGNDであれば、GND端子ランドパターンにかかった形状でGND-Viaを形成)することを当社のWDのA/W設計指摘ポイントとして推奨しております。


しかしながら、それでもGND-Viaはできるだけ数多く配置した方がよいと考えられる方々は、上記のWD指摘のポイントを実施して頂ければ、GND-Viaをより密に設定されても特に弊害はないと思われます。例えば、もし信号ラインがカクカクと曲げなければならない箇所がある場合等はEMC性能を上げる効果があるのかもしれません。勿論、カクカク曲げた配線は勧められませんが、、、。
A/W設計の注意事項として“GND-Viaはできるだけ数多く”というものは所謂イメージです。そんなことよりもEMC設計実践のためにもっと注意を払わなければならないA/W設計事項があります。当社の“WD”ではEMC設計上必要とするA/W設計事項とそれを基板設計に反映させるための方法をご紹介しています。
是非、当社のPDSDを含めて、WDをご検討ください。

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15. グランドノイズとは....

グランドノイズと聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか?

機器のグランド(アース)電極を介して機器の様々なところへ流れ込んで、予期せぬ場所から空間に出ていくのでは、、、等と考えて、EMC対策としてグランドノイズは低減すべきもの、と考えておられる方もいるでしょう。

グランドノイズに関してはEMC関連のハウツー本やWEB等でよく解説されています。ここで簡単に説明しますと図(a)に示すようにICが電源ラインとGND電極に接続する際、IC内の特に出力バッファーの動作(Lowレベル⇔Highレベルの遷移)において瞬間的に電源(Vcc)側からGND側へ貫通電流が流れます。この時、IC内のバッファーと回路基板上のGND電極の間に介在する寄生インダクタンス(Ls)により電圧が発生し、これがグランドノイズとなります。

正確には、電源(Vcc)側の配線においても寄生インダクタンスが存在しますので、その寄生インダクタンスも含めてグランドノイズとされている方もいます。また、Vcc側の電源配線を介してIC外部に漏洩していくイメージから、電源ノイズとしている方もいます。当方としましては、ノイズであっても活線とGNDの2極により伝導する電源ラインのノイズと考えています。

さて、このノイズの対策としては図(b)に示すようにパスコンCd(デカップリングコンデンサ)を用います。パスコンCdにより、VccとGND間の交流(高周波)電位を0V(交流短絡)にすることにより寄生インダクタンスLsによるノイズ電圧の発生を抑制させます。しかし、実際のパスコンCdには寄生インダクタンスがあることや、パスコンとIC内バッファーとの間の接続においてインダクタンス成分があったりすることで、前述の交流短絡の効果が低下します。その対策として、パスコンに寄生インダクタンスの低減を目的としたLW逆転型や三端子型といった特殊なパスコンを適用させたり、ICとパスコンの間の配線に伴うインダクタンスを低減するICパッケージやパスコンの実装方法を適用させたりといった多くの方法があります。

一般的に、低クロックのCMOS ICであれば、電源パスコンを必要とするものの、あまり前述のような寄生インダクタンスを気にする必要はなく、即ちグランドノイズの発生を考慮する必要はありません。しかし、高クロックのCMOS ICとなると上記のような特殊なパスコンを検討する必要が出てくる場合もあります。

ただ、押さえておくべき点として、パスコンの実装によりパスコンの接続した点でのノイズ(高周波)帯域で十分に交流短絡(電気回路的には0Vとなることは無いので電圧値としては-40dBV (=0.01V) 以下と言った値を目指すことになります)ができているか、と言うことです。

PIの通常の評価では指標としてICの電源端子側からみた電源側のインピーダンス(インプットインピーダンス)をICが安定動作する(とされる?)ターゲットインピーダンスよりも低くなるようにパスコンの選択と個数の調整等を行います。実際の現場ではターゲットインピーダンスが分からないことが多くインプットインピーダンスをできるだけ低くして、それにより高周波のノイズ帯域で十分に0Vに近づくようにしています。

しかし、電源ラインの途中に回路基板間を接続するケーブルが介在する場合は、上述のPIでの評価では十分ではない場合があります。PIを検討できる市販のツールでは複数の回路基板及びそれらを接続するケーブルからなる電源系におけるPIの評価を対象とはしていないからです。実際のEMI対策の経験を通して、電源系のEMI(不要輻射)ではケーブル起因によって生じている場合が多いのです。

当社のPDは電源ケーブルを含んで電源系のノイズを評価することができます。詳細説明は”PD適用・実践編”でご紹介しますが、回路図の段階で電源ラインにおけるEMI設計のために取るべき対策及び検討方法(シミュレーション)について解説します。

ここで簡単にグランドノイズに関してまとめますと

①グランドノイズとはICの電源端子及びGND端子接続部に寄生するインダクタンスより生じる電圧ノイズです。

②グランドノイズはICに接続させる電源パスコン(デカップリングコンデンサ)により対策されています。

③パスコンの最適化設計はPI評価により行うことができます。

④但し、回路基板間をケーブルを介して電源供給が行われる場合は当社のPDを適用して電源ラインの設計を行うことを強くお勧めします。

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PD適用に関する技術資料

2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用。

EMC設計と言いますと、PI/SI/EMCの検討と言いますが...

電源ライン設計を革新。PD適用

21. 機器・装置間の接続ケーブル・・・シールド線(GND)は両端接続が基本!

14. 電磁波における遠方界と近傍界。EMC対策では重要です。

前節(11. 12. 13.)では電磁波の伝搬について説明してきましたが、空間を伝搬する際の減衰について触れていなかったので、当節で説明致します。

電界や磁界を高校時代の物理で習い始めると電界Eであれば距離rに対して、クーロンの法則から1/r2で減衰すると習った経験があるでしょう。これが所謂電界の空間減衰になります。磁界の場合も同様な関係で空間減衰します。

電磁波も伝搬距離rにより電磁波(電波)の振幅(即ち電力)が減衰していきます。但し、その減衰の仕方については、高校時代の物理では静電場・静磁場(直流場)であったのに対し、電磁波は動的な交流場となるため、その状況は多少変わります。

下記の図は動的な電気双極子(z軸方向のみで極性が入れ替わる)が空間に形成する電磁場について計算したものです。(導出プロセスは省略。詳細は電磁気学の書籍等で。)

この電気双極子により形成される電磁界は双極子の極性入れ替わり頻度(振動数)、即ち電磁波の周波数の影響を受けない理想的なダイポールアンテナにより形成される電磁界と同等になり、電気双極子の中央が信号源(波原・給電点)となります。

図において動径方向rが信号源からの電磁波の伝搬方向となり、動径方向rに対して横(垂直平面)方向がθ方向とΦ方向となります。式で記載された電界及び磁界で伝搬に伴う空間減衰について1/r、1/r2、1/r3の項があることに気づきます。rが極めて小さい場合は1/r < 1/r2<< 1/r3(各項係数省略)なる関係となり、rが十分大きな場合は1/r > 1/r2> 1/r3(各項係数省略)となります。特に1/rの項が支配的になっていく距離はr≈λ/(2π)(λは電気双極子の振動数(周波数)に対する空間波長)となり、このr <  λ/(2π)の領域は近傍界、r > λ/(2π)の領域は遠方界としています。因みにλ/(2π)の距離(≈λ/6と考えてもよい)は例えば30MHzで160cm、100MHzで48cm程度になります。

遠方界はいわゆる電波の領域となり、1/rの項の電磁界(遠方界成分)となるので、動径方向r(伝搬方向)に電磁界は無く、伝搬方向に対して横方向に電界E及び磁界H を持ち、いわゆる波面を形成します。これらは前節で述べたTEM波の状況を式で説明しており、電界Eと磁界Hの積(E☓H)によるポインチングベクトルSが伝搬方向(動径方向r)に向かう状況も示しています。

一方、近傍界については少し複雑になります。特に信号源に近い側は電界において1/r3の項が極めて大きくなり、準静電界と呼ばれる領域になります。低周波であればあるほど大きな電界が得られる領域を確保できるため、その性質を利用した電子デバイスもあったりします。また1/r2の項が有効となる誘導電磁界とよばれる領域もあり、昨今は無接点電力伝送等で利用されたりしています。特にコンデンサ、コイルと言った部品の外界に形成する電界、磁界は近傍界であって、遠方界を持つことはありません。1/r2と1/r3の項は近傍界成分と言えるでしょう。

図にも示されていますが、1/r、1/r2、1/r3の各項はいずれも独立項で電界及び磁界はそれらの線形結合で示されるので、遠方界と近傍界は別のモノ(性質)であることを理解して頂けるでしょう。そのため、機器のEMI(不要輻射)の解析等で近傍界プローブを使ってマッピングを行ったり、電磁界Simで近傍電磁界を計算したりして、機器のEMIとの関係を探ったり、関連付けた資料を目にすることがありますが明確な関連付けは困難であり、結局想像力を駆使したイメージでの結びつけ程度のものにしかならないのです。

また、1/rの項の部分はアンテナの特性と関係するため、機器の基板・ハーネスなどは基本的にアンテナとしての能力は低く、電磁場の1/rの項に相当する部分は一般的には小さくなります。そうであるにも関わらず、近傍界プローブで測定した1/r2、1/r3の項のレベルを以って放射の原因であると結論づけたりすると、EMI対策として大きな遠回りをすることになったりします。

当節をEMC対策の観点でまとめますと

①放射する電磁波(ノイズ)は遠方界成分(1/rの項)です。

②機器の基板・ハーネスの周辺に関する電磁界Sim結果やプローブ測定結果は発生する電磁波(ノイズ)の近傍界成分です。

③遠方界成分と近傍界成分は別モノですので、近傍界の検討結果から遠方界を推測することは困難です。

私が高周波関係の仕事を始めた頃、先輩から”アンテナには近傍界があって電波がぐちゃぐちゃな状態から整った平面波に変化して遠方界で放射される”、と教えられて、それを信じて長く過ごしていました。その頃は遠方界での電波しか扱っていなかったので特に問題にはなりませんでしたが、EMCを扱う技術者の方々には考慮すべき事柄だと思います。

※関連ページ

EMI対策の決め手?近傍界スキャナ

13. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(3)

12. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(2)

11. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(1)

8. ノイズも電磁波。検出するのはアンテナ?プローブ?

好評だった前回セミナーに引き続きを実践編(続編)のオンラインセミナーを開催‼

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13. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(3)

本題の前2回の解説でノイズという電磁波について下記のようにまとめました。

①電磁波の電場Eと磁場Hは垂直の関係です。

②電場Eと磁場Hの一方が減少又は0になると伝搬する電磁波も減少又は0になります。

③電波はTEMモード(電波の伝搬方向に対して横方向に電場E 、磁場H )です。

④TEMモードの電磁波は電場Eと磁場Hのベクトル積となるポインチングベクトルSを持つ。

⑤ポインチングベクトルSが空間に向かうことで電磁波(ノイズ)は空間に放射されます。

⑥実際の機器ではケーブルのコネクター部でポインチングベクトルSは空間に向かう形態となっています。

⑦PD適用、SD適用はポインチングベクトルSのスカラー量を低減する回路的手法です。

今回は上記の事柄を踏まえて、回路基板上の配線を伝送する電磁波について触れ、上記の⑥について説明します。

下に示す図は信号源(ノイズ源)から負荷に向かって回路基板上の配線を電磁波(ノイズ)が伝搬する状況を説明した図です。

先ず信号源はその電圧により信号源に繋がる配線の一方(Hot)の側導体に電流(i)を流出させます。この時、それと同時且つ同量の電流を信号源に繋がる他方(GND)の側導体より流入させます。電荷で説明すれば、信号源はHot側に電荷(+q)を供給し、GND側より同量の電荷を取り込む関係になります。この正電荷を取り込むという状態は、”信号源が負の電荷(-q)を供給する“、と物理的には同義になります。

よって信号源から同時に同量の電荷+q-qが配線のHot側導体とGND側導体にそれぞれ供給されるので、Hot側導体とGND側導体の対向する空間で電荷+qから電荷-qに向かって電場E が形成されます。この電場E は電荷+qから出た電気力線のすべてが電荷-qに向かうため、divD = div εE = 0 となります。

また、配線に流れる電流についてみると、Hot側に電流iが流れる場合、GND側にも同量の電流が流れますが、その時、電流の流れる方向は反平行の関係になるため、Hot側の電流iに対してGND側は電流i が流れることになります。前述の電荷の状況を考慮して配線を流れる電流を述べると、信号源からHot側導体とGND側導体に流れる電流は、一方に電流i、他方に電流-iがペアになって負荷側に向かって伝搬することになります。この電流のペアがそれぞれの導体に形成する磁場はHot側導体とGND側導体が対向する方向の面に対して垂直の方向に磁場Hを形成します。

このような電場Eと磁場Hが形成されるため、前回説明したように電場E、磁場Hにより形成されるポインチングベクトルSが形成され、Sは常に負荷側に向く形になります。将に、信号源の電力は負荷側に向かって伝搬していくことを示します。

図では、信号源が高周波(交流)であってもSは常に負荷側に向く状況を示しています。更に、ポインチングベクトルSはHot側導体とGND側導体が対向する空間内に保たれており、外界を向くことがないことも示しています。これは電磁界解析を使ったシミュレーションでも確認できますが、2本の導体(伝送インピーダンス一定)で信号源と負荷を繋げたモデルでは殆ど放射が起こらないことを意味します。

よって、4層基板等で第2層をGNDのベタパターンとして、そのGND上の第1層で長い配線や周回(ループ)状のパターニングを行ったとしても、その配線からノイズが放射されることは無いのです。但し、問題になるのは回路基板上の配線と外部のケーブルを接続するコネクター部でそれぞれの配線の断面形状が変化するために、配線の構成する導体間に保持されていたポインチングベクトルSが外部の空間に向く状況ができてしまうことがあります。この外界に向いたポインチングベクトルSが不要輻射(EMI)となります。

ポインチングベクトルSを外界に向けないように機器を設計するのは困難ではないものの、EMC対策コストを増大させるものとなり、そのコストは機器のユーザーにとって価値のあるものにはなりません。そこで上記の⑦で上げているように、当社が提唱しているPD、SDを使ってポインチングベクトルSのスカラー量を低減する回路的手法が適しています。EMC対策に対する費用対効果がよい上、回路シミュレーションを使うので機器の回路動作の事前確認にもなります。

是非、当社推奨のEMC設計、PD適用SD適用をご検討下さい。

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2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用。

当社推奨の”PD適用”。YouTube動画で紹介して頂きました‼

電源ライン設計を革新。PD適用

3. 信号ラインのダンピング抵抗、当社のSD適用のSimモデルで抵抗値を設定。

12. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(2)

前回は電磁波についてその電場E 、磁場Hについて説明し、伝搬形態がTEMモードであると説明しました。このTEMモードであることをベクトルの関係で示すと下記の図のようになります。

即ち、電場Eに対して磁場Hが反時計周りで垂直の関係にあり、電場Eと磁場Hにより構成する面(波面となります)に対して垂直な方向が電磁波の伝搬する方向となり、ベクトル積E ×H = SとなるポインチングベクトルSを定義することができます。このポインチングベクトルは電磁波の伝搬する方向を示すと共に、そのスカラー量は電磁波の電力密度を示します。また、ポインチングベクトルSに対する電場Eと磁場Hによる電波の波面の特徴から空間を伝搬する電磁波を平面波と呼びます。そのため、もし励振源から電波が出ているとしたら、それは励振源から面的な広がり(風船が膨らむイメージ)で電波が放射されていることになります。更にTEMモードの電磁波は、下記の図のように一方向(y方向)に対して電場Eと磁場Hが垂直に交差すると共にそれぞれの強度もそれぞれ同一位置で互いに正の比例関係になります。その比例係数が空間インピーダンス(Z0≒120π (Ω))となります。

機器の不要輻射(EMI)を考える場合、EMC対策を担当される方々は”どうしてノイズ(電磁波)が放射されるのか?”という疑問を持つでしょう。そのメカニズムが分かればEMI対策のカギになることが期待できるからです。そこで上記の電磁波の説明は一つのヒントになります。即ち、ポインチングベクトルSが空間に向かっているかどうかということです。

その状況を観る方法として、アンテナにおける電磁界分布の状況を図等にしてイメージすると分かり易くなります。実は、”アンテナはポインチングベクトルSを空間に向ける装置である“ということを実感できるようになります。詳細な説明は当社のEMC設計 背景説明”4.機器からのノイズ放射のメカニズムを理解“のセミナーで行います。

実際の機器のEMIは、機器の基板とケーブルの接続部(コネクター部)がノイズ放射の励振部となり易い部位です。このメカニズムについては和田先生(京都大)のいくつかの論文の中で紹介されていますが(当方は和田モデルと呼んでいます。)、このコネクター部の信号ラインや電源ラインでポインチングベクトルSが空間を向く形態になっているのです。

当社が提供している、PD適用、SD適用はこういったポインチングベクトルSが空間に向く部位の回路の構成に一工夫を加えることで効果的にポインチングベクトルSのスカラー量を低減させ、即ちEMIを低減させる方法を提供します。その詳細についてはPD適用、SD適用の各セミナーの実践編で説明致します。

この辺で次なるEMC設計上で重要な点をまとめさせていただきますと、

④TEMモードの電磁波は電場Eと磁場Hのベクトル積となるポインチングベクトルSを持つ。

⑤ポインチングベクトルSが空間に向かうことで電磁波(ノイズ)は空間に放射されます。

⑥実際の機器ではケーブルのコネクター部でポインチングベクトルSは空間に向かう形態となっています。

⑦PD適用、SD適用はポインチングベクトルSのスカラー量を低減する回路的手法です。

是非、当社のセミナーを通してEMC設計の理解を深めて頂きたいです。

11. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(1)

昨今のEMC対策セミナーで講師の方々は、ノイズは電磁波であるということを説明され、下記のMaxwellの方程式を示されて、電磁波の本質(?)であると説明します。

divD = ρ          ・・・(1)

divB = 0           ・・・(2)

rotE = -∂B/∂t       ・・・(3)

rotH = J +∂D/∂t  ・・・(4)

B =μH, D =εE

セミナーの受講者で上記式を見せられた多くの人にとっては、何を言いたいのか全く理解できないでしょう。また電磁気学を習った経験がある人にとっても”だから何なの?”、と思うでしょう。

仮にEMC対策を担当されている方々がMaxwellの方程式をおぼえたとしてもそれを利用する場面はあまり無いでしょう。但し、電磁波の知識を深めるという点は期待できます。

ただ、下記の性質をMaxwellの方程式が示していることを理解して頂けると当社のEMC設計を深く理解する上で役立ちますので少し説明をしたいと思います。

その前に、先ず空間を伝搬する電磁波(電波)を考える上では、J =0であって、

rotH = ∂D/∂t ・・・(4*)

となります。当たり前ですが、電流が空間を流れることは無いからです。(回路基板上の配線を流れる電磁波(電流)を扱う際はJ ≠0となり式(4)の右辺を変形していきますが詳細は別の機会に)

また、式(1)についても

divD = 0        ・・・(1*)

とおくことになります。(1)の式でもρ = 0を含んでいると考えることもできますが、ρ = 0とρ ≠ 0には大きな差があります。

先ず、そもそも演算子divは、例えばベクトルAのある空間中でdivAを行うことで、その空間のあらゆる場所で、divAが正なら湧き出しが、divAが負なら吸い込みがあることを示します。これに対しdivA = 0ということは、ベクトルAは空間のあらゆる場所で湧き出し量と吸い込み量が等しいということになります。

ρ ≠ 0は静的電場(単一電荷が存在する状況で、所謂ESDを扱う条件下等)において成立し、物体が正又は負に帯電した際に張られる電場を示しています。しかし、電圧と電流により電力の入出力を行う、所謂直流・交流といった電気を扱う領域ではρ = 0となります。これは電荷が無いという意味ではなく、電圧と電流により対象とする電気の周囲の空間に張られる電場(E )は至る所で吸い込む電場(電気力線の数:電荷密度としては-ρ)と湧き出す電場(電気力線の数:電荷密度としては+ρ)が等しい状態になるためです。

磁場(H )に関してはご存知のようにN極から出た全ての磁力線がS極に至る性質があるので、周囲の空間は至る所で(吸い込む磁場)=(湧き出す磁場)の関係になり(2)の式となります。

よって上記のMaxwellの方程式は電磁波(直流から高周波)においては

divD = 0         ・・・(1*)

divB = 0          ・・・(2)

rotE = -∂B/∂t    ・・・(3)

rotH =∂D/∂t  ・・・(4*)

となります。

ここで気になるのがrotという演算子ですが、rotAは、ベクトルAの方向に対する垂直面内における回転ベクトルを示しますが、ベクトルAとベクトルrotAは垂直の関係だということが重要な点です。よって式(3)、(4*)から電場Eと磁場Hは垂直の関係であるということと、電場Eと磁場Hの一方が減少又は0になると、他方も減少又は0になり、即ち伝搬する電磁波は減少又は0になるということです。しかし、式(3)、(4*)からは時間微分された電束密度Dと磁束密度Bではないかと疑問を持たれる方もいるかもしれません。これは

                       D =D(r)TD(t)= εE(r)TD(t)

                        B =B(r)TB(t)= μH(r)TB(t)

とおいても(1*)~(4*)の式を満たすことができ、電場E 、磁場H の解とすることができるためです。よって、電場E 、磁場H のベクトル方向は時間の偏微分をしてもベクトル方向が変わることは無いのです。

(1*)~(4*)の式に対して、一方向(y方向)に進む電磁波(高周波のイメージで)の電場E 、磁場H について、ある条件を付けて解を求めると、

                       EEx・exp{2πj(f・t) }

                      HHz・exp{2πj(f・t) }

                             λ :電波の波長、f :電波の周波数

となります。この時のある条件とは、電波の伝搬方向(y方向)に対して電場E 、磁場H がベクトル成分を持たない(E = 0H = 0 )という条件です。実はこの条件が空間を伝搬する電磁波(基板上の配線を伝搬する場合も含みます)の重要な性質となります。電波工学ではこのような電波の伝搬形態をTEMモード(電波の伝搬方向に対して横方向に電場E 、磁場Hがある)と呼び、電波を扱う上で重要な性質となります。尚、E = 0H = 0ではない電磁波の伝搬モードも当然のことながら存在します。しかしEMCを対象とする場合は殆ど考慮する必要は無いのでこの場での説明は省略します。

今回は取りあえずこの辺で一旦EMC設計上重要な点をまとめさせていただきますと、

①電磁波の電場Eと磁場Hは垂直の関係です。

②電場Eと磁場Hの一方が減少又は0になると伝搬する電磁波も減少又は0になります。

③電波はTEMモード(電波の伝搬方向に対して横方向に電場E 、磁場H )です。

是非、心に留めておいて下さい。

10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)のトレンドの中、各セットメーカー様の製品設計の現場においても設計プロセス上の課題を解決するために様々な検討がなされ、DX(狭義)となるような設計プロセスの改革(レガシーな考え方からの脱却)を検討されていることと思います。 幾つかの設計プロセスの中には製品のEMC課題もあるかもしれません。課題解決のためのEMC設計に関しては、既にEMC関連ツールのベンダー様より製品設計の電子データの段階(デジタル)でEMC設計を行うためのツールが市販されており、そのツールを導入し製品設計の段階で適用すればデジタルの段階でEMC設計ができる状況ができ、デジタル技術利用はもう実現できている様に見えます。 実際にそうなのでしょうか?少なくとも私が経験してきた製品設計の現場では全くそのような状況ではありませんでした。また、他のセットメーカー様のEMC関係者とお話をさせて頂いた中でも、製品設計の現場でEMC関係ツールの運用が上手く行っているといった話は一つもありませんでした。 展示会やセミナー等ではツールベンダー様やツールベンダー様と大手セットメーカー様の共同でいわゆるカッコよくEMC課題を解決した資料の提示を目にします。こんなに上手く行くのであればセットメーカー様の担当者は是非導入したいと考えるでしょう。しかし、”実際はそう簡単ではない”、という現実をここ10年間見てきたように思います。 また最近、あるメーカー様では20年以上電磁界系の3Dシミュレータを駆使してEMC設計の確立を目指してきものの結局実現できず、新たな試みとしてシミュレータメーカー側の協力を得て新たな電磁界系のシミュレーション技術を構築して新たなEMC設計の確立(デジタル設計革新)を目指す、といったことも聞いたこともありました。設計する製品レベルでの不要輻射(EMI)を新たな3Dシミュレーション(デジタル)で可視化して試作(フィジカル)前に問題を解決しておく、という将に理想の設計プロセスを実現するということです。 しかしながら、製品設計の現場で20年もの間、人とお金と時間をかけて実現できなかったことを、シミュレータメーカー側の協力を得ただけで実現できるものなのでしょうか?むしろ、20年かけて実現できなかったということは、やはり”そのやり方はよろしくない”という結論を示しているようにも思えます。 ここ10年、20年のEMC課題への取り組みは製品レベルや回路基板レベルへの3D-Simの検討・解析が中心でした。このレベルでのEMI等の検討は既にかなり複雑な構成になっており、そう簡単には解析できないことを多くの技術者が経験してきたものと思われます。私も過去約10年そのような解析をやってきましたが、やはりEMC設計の確立につなげることはできませんでした。やはり、3D-SimによるEMC設計は誰もが思いつくレガシーな考え方なのです。 また、製品設計のプロセスの進め方としても、仮に事前のSimの段階でEMIのリスク(可能性)に気づいたとしても設計プロセスの後戻りをしてまでの修正を施すかどうかの判断は難しく、製品設計を計画通り進めることが優先され、修正しないまま設計プロセスを進めるといった判断になるでしょう。 そこで考えられるのが、製品レベルや回路基板レベルといった完成に近いレベルでの検討ではなく、製品を構成する各要素のレベルで検討する方法です。EMC設計に当てはめるなら回路図レベルや部材(電子部品、ケーブル等、基板上の伝送路等)レベルから検討して製品レベルのEMIのリスクを低減させていく方法です。 この考え方は、昨今の自動車メーカーの開発プロセスとしてよく紹介されているV字設計とMBD (Model Based Development)による方法を適用したものです。製品開発において3D等の大規模な開発システム(ツール)を適用するのではなく、開発製品における開発すべき項目を、例えば構成→モジュール→デバイスのような各レベルで分解して各項目のレベルにおいて、1D-CAE(1次元的 : Computer-Aided Engineering)等を適用してモデルとして検討して、上位のモデルを実現できる下位のモデルを検討する方法であり、電子データで検証する段階をデジタル、試作による検証する段階をフィジカルと呼び、デジタルとフィジカルの結果を比較検討することにより、製品開発の高精度化・高品質化・低コスト化・スピードアップを実現するものです。 EMC設計においても、製品レベルや回路基板レベルでの3D-Simのレガシー的な適用ではなくモジュール・デバイスといったレベル、特に回路図設計段階から適用させていくべきです。Simのモデリングのためのデータインプット(Digitization)が容易で、Sim検討も関係技術者なら誰でも短時間にでき、且つ結果の共有(Digitalization)も可能で、MBDにおける上位のモデル構築にデータの紐づけとして利用することができます。例えば、回路図設計のレベルでノイズのエネルギーの低減化を検討しておけば、より上位のレベルのモデルにおいてもそのノイズのエネルギーが増大することは無いと言えます。 当社のEMC設計のアプローチは将にMBDであり、それを実現する方法としてPDSD、WDを提案しております。上記の1D-CAEはSPICE系Simに当たります。この方法によれば、回路設計者であれば誰でもオペレーションが可能で、設計すべき事柄が明確です。また、費用的にも3Dの電磁界系Simツールに比べれば低く抑えられると共に、ライセンスの本数としても複数用意し易いです。更に、EMI低減効果は確実に出ます。(その状況は電磁界Sim等で確認することが可能)

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難点としては、今までの設計プロセスの進め方に比べると多少の変更が加わることです。そもそも新しい考え方を現場の担当者に受け入れてもらうのは難しいものです。例えば、今まで回路Sim (SPICE)をやったことがない回路設計者には辛いことかもしれません。しかしSimが使えるようになることは他の開発・設計のシーンでも活用できる、といった自身のスキルアップのモチベーションをもって取り組んで頂けたら、と思っています。 それでも、MBDの考え方でのEMC設計の取り組みは、その導入時においてデジタル段階での時間的なロスが生じてしまうかもしれません。しかし試作(フィジカル)段階に至って、効果のあるEMIの低減を実現できます。 当社のEMC設計は、レガシーからの脱却なのです。