MBDの活用 ・・・➡現象のメカニズム理解・スキル向上の活動に

最近、自動車メーカーの開発部門におけるMBD (Model Based Development)活用の状況を聞く機会がありました。話題のMBDですが思った以上に開発・設計部門で活用されていることが分かりました。しかしまあ、MBDに関する関係者間での公開フォーラムが行われているというのは、まだまだ先進的な方法であって、本当の活用レベルは想像するしかないものの、カッコよく見せられるレベルにはある、というところなのかもしれませんが、やはりこれからの開発・設計においてMBDはより浸透していくものと確信しました。

ある自動車メーカー様のプレゼンの中で、MBDの開発部門内への浸透にはそれなりの苦労があったようで、今までのやり方に固執する保守的な方々(所謂、抵抗勢力)もいる中、必ずしもスムーズにできたのではないようでした。しかし、一度MBDを使ってみると(ここまで行くのが本当に大変)その有効性、自身の技術力向上に気づきMBD活用をするようになったようでした。このメーカー様はプレゼンされたご本人が部門長としてトップダウン(業務命令でしょうか?)で進められたようでした。さすが先進性のある方向への英断だったと思います。

自動車業界でのMBDの活用は既に個々のモデルが会社間でも流通されているようで、各メーカー様の開発部門におけるコスパ・タイパ(時短)で効果を上げているようでした。

当方が関わるEMC設計へのMBDの適用については、当方の記事“10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!”で既に記載しましたが、ある自動車メーカー様のプレゼンの中で述べられていたことで、私も全く同感である事柄がありました。それは、MBDを活用するためのシミュレーションできるモデルを検討することになりますが、このモデル自体を検討することは、現象のメカニズムを真剣に考える必要があるので、結果として担当者の現象に対する理解力・スキルを確実に向上させることができる、ということです。

更に、そういった理解力・スキルが開発・設計プロセスにおいて共通性があるということを見いだせれば、その情報・知識を部門内において共有できるようになり、そのプロセスにおける生産性を向上させることができる、ということです。即ち、ある技術者がある機種で苦労して検討した課題をモデル化しておけば、他の機種で似た課題を他の担当者が遭遇した際に、そのモデルを使って苦労することなく検討することができるといった効果です。

現場のEMC対策を経験してきて、強く感じたことは“現場のEMC担当者が理解できるレベルの範囲でしかその対策はできない”、ということです。やはり、真のEMC設計・対策を実践することは、“その各担当者の理解力・スキルを向上させること”、なのです。MBDを適用させていくことは、担当者レベル(高価なシミュレータをオペレートする専門的レベルは必要ない)で行えるので、各担当者の理解力・スキルを向上させる活動となるのです。

当社はユーザーの皆様にEMC設計でのMBDの考え方をご紹介して参ります。是非ご検討の程よろしくお願い申し上げます。

関連文献

10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

MBD、EMC設計を革新

DX時代のイノベーション

ESDシミュレーションに新たなソルバー登場!

ESDガンを使ったESD試験(IEC61000-4-2)に関するシミュレーションに関しては、タイムドメイン(トランジェント)を使った電磁界シミュレータにより電流・電圧の状況を可視化できることをいくつかのシミュレータベンダーより紹介されています。また、私も現役時代に被試験機に対してSimによる可視化を行ってきました。但し、そのシミュレーションはESDガンを被試験機のフレーム(通常はGNDに接続)に接触させる接触放電試験向けであって、気中放電試験を対象としたものではありませんでした。

そこで接触放電と気中放電で何が違うかというと、先ず接触放電試験ではIEC61000-4-2の規定に準じたESDの電流波形(規定されたファラデーゲージで観測)を被試験機のフレーム等に直接印加する形式ですので、ESDガンによる試験環境を電気回路学と電磁気学の知識を駆使してモデル化すればトランジェント系の電磁界シミュレータでSimすることができます。それに対して、気中放電はESDガンのチップ先端と被試験機のフレーム等の間の小空間(ギャップ)を設定してそのギャップで火花放電を起こしてESDの電流を印加する形式となります。この時の火花放電をシミュレータに取り込むために電気回路学とか電磁気学を適用してのそのモデル化は困難だったのです。

火花放電にはいろいろな特徴がありますが、根源的にはプラズマ現象で生じているため物性物理学的な要素を持ちます。それに伴う電気的な性質として、

①ギャップが特定の電圧差に達するとプラズマ(火花放電)が生成し、(パッシェンの法則)

②ギャップの電気抵抗は無限大から略0に変化します。(ギャップ・陽光柱は定電流特性)

③発生プラズマには継続できる時間(nsレベル)があり、

④前述のギャップの電圧差(放電開始電圧)よりも多少低い電圧差まで継続します。(続流現象)

⑤当然のことながらプラズマが消滅するとギャップ間の電気抵抗は略0から無限大に変化します。

かつて、とあるシミュレータベンダーからこのギャップに抵抗モデルを適用することにより気中放電をシミュレートできるとの提案がありました。しかし上記①~⑤の事柄をシミュレートするのは無理ではないかと思われました。

しかし、最近EMC・ノイズ対策技術展を見学しまして、ESDの新種のシミュレーションソルバーが提案されているのをたまたま目にしました。

詳細についてはよく分からないのですが前述のギャップ空間にプラズマに関する物理的な連立方程式を適用しモデル化して、プラズマ発生をシミュレートさせた、とのこと。等価回路の適用等という無茶な方法ではなく、本質的なプラズマ現象を適用した点は“サスガ!”と感じました。説明員の話によると計算結果は完全ではないもののパッシェンの法則に従うという。すばらしい!

そのシミュレーションの簡単なデモを展示会のブースで見させてもらいましたが、かなり期待できる気がしました。ただ、火花放電が起きそうな箇所に先ほどのプラズマを計算するための物理的空間を適用し、それ以外の空間には、電磁界空間を適用するという形式になるため、適用先は限定されるかもしれませんが、例えば気中放電試験で得られた結果に対する解析のためには極めてよいと思われました。

当社はESD試験対策について当社のHPの記事、“ESD対策、スキャナツールの解析は有効?”の中でも記載しておりますが、ESDガン印加による2次的火花放電の発生を疑うことを紹介しております。将にこの可視化検討Simとして、有効なツールになり、新たな知見が得られるものと思われました。

このようなESD試験検討後の対策に関して有効な施策の例を当方のIEC61000-4-2(Part-II)とセミナーの中で解説しております。是非ご参考にして頂きたいです。

関連ページ・・・こちらもご覧ください。

27. ESD試験時の2次放電発生の予見をsimで確認・・・これが不具合原因!

ESD対策、スキャナツールの解析は有効?

”ESD対策の新たなる進展はあるのか?”

”ESD及び静電気による機器・装置の不具合解析に当社のESD2

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”4. ESD及び静電気による機器・装置の不具合解析に当社のESD2

“ESD試験(IEC61000-4-2)対策に関する技術資料”

サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して

機器・装置/ロボットにトラブル発生!不具合解析に行き詰まったら...

空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?

サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して

今年も梅雨の時期となり、EMC試験の現場では試験環境の湿度は高くなりがちではないかと思います。静電気、放電といった言葉を聞くと“空気の乾燥”が原因と考える方が多いと思います。それは自然界における静電気現象として正しいのですが、EMS(イミュニティ試験)としての放電・サージ関連の試験は実は湿度が高い方が機器・装置にとって不具合発生のリスクが高まります。(詳細については当方のIEC61000(Part-I)及びコンサルブログ“空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?”の中で解説しております。ご興味のある方はそちらを参考にしてください。)

この辺が、ESD試験が実際のESD現象とは異なるメカニズムである反証となるのですが、でもまあESD試験をパスすることが開発機器を一般市場に出すためのルール(規格)として必要になるので、試験をパスさせるための対策作業が必要になる訳です。

かつて私もESD試験の現場で原因のよく分からない不具合発生とその対策に結構苦しめられた経験があります。その当時はESD試験に関する原理やメカニズム等を全く理解していなかったため、何か機器・装置にそれらしい対策を施してひたすらESDガンの引き金を引いておりました。当然のことながら対策が上手く行かず暗礁に乗り上げて、対策が行き詰まる状況になったりしました。

ただ、ESDパルスの印加と不具合発生に関してパルス印加による機器・装置内での2次放電発生の関係に気づいてからは不具合発生の対策方針を立てやすくなりました。この2次放電の発生は、対策環境の湿度が高くなると発生しやすくなる傾向にあります。少なくともESD試験の湿度範囲(相対湿度 30~60%)で、できれば低めの湿度で行うべきです。大概、ESD対策時の担当者はESDガンの設定電圧や打ち込み回数・頻度を高めに設定して行うでしょうから、湿度を低めの状態で試験を行っても機器・装置の耐ESD性能の評価に問題は無いでしょう。

尚、ESD試験対策として有効な施策の例については、当方のIEC61000(Part-II)の中(セミナー)で解説しております。是非参考にして頂きたいです。

この時期のESD試験を行うシールドルームの壁面等は冷房等により結露が生じ易い状態になっていないでしょうか?もし結露が生じるような状態でしたら是非、試験環境の湿度を気にして頂き機器・装置のESD試験対策をやって頂きたいです。

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企業技術者のリスキリング・・・EMC設計も是非!

昨今、日本国政府による中高年企業人(新しいことにトライする機会がなかった方々)向けにリスキリング(re-skilling)を支援する施策が行われています。

私の現役の頃にはそんな支援は当然ありませんでしたが、担当していた技術(特に高周波関連)は技術トレンドが結構早く変化していたので、自分が見出した特許技術も数年後に陳腐化するという経験を目の当たりにしていました。そんな現場にいましたので、担当した技術の現場も転職を含めて結構変わり、それぞれの新たな仕事に合わせた知識・技術の習得(シミュレーション利用)をやってきました。まあ今風に言うところのリスキリングを当たり前にやっておりました。

また、特に企業のエレキ技術者にとっては未踏の領域(フロンティア)等は殆どなく、先駆の技術者によって殆どのエレキの領域は開拓されており、その知識・ノウハウは多くの文献(技術報告書等)で紹介されているので、自分にとって新たな分野・領域に進む際にはそれらを事前(又は業務を進めながら)に調べておくことが新たな仕事を進める上で非常に役立ちました。

しかしながら、かつての私の周辺にはそういった準備を怠り、勘と経験・耳学問のみで仕事に取り組む輩も居り、当然ながら出せる結果も“やらなくても分かる、金(百万クラス)と時間(週間単位)の無駄遣い”といったものを多々目にしました。中には科学的な立場さえ無視した妄想ばかり言う、“無知の極み”の愚かささえ気づかない輩もいました。(大概こう言う人は声がデカい!責任も取らない!)

昨今のエレキ関係では同じ業務を長く続けることは残念ながら今を生きる技術者にとっては良くないこと(不幸)だと思います。やはり多くの技術が身に付くように多くの技術の現場を経験(リスキリング)すべきです。私の場合、長年担当した高周波技術や実装技術、IC設計技術が現在の当社が紹介しているEMC設計の基盤になっていますし、一見関係がなさそうなプラズマ関係をかつて担当した際に勉強した事柄が現在の当社のESD設計の基盤になっております。更に、それらの設計にシミュレータを適用するというのも今までの経験が活きております。

現在、企業のエレキ技術者として活躍されている方々は、是非多くの領域で新たな仕事にチャレンジ(リスキリング)をして頂き、多くの知識・技術を得て頂きたいと思います。そして、その中で是非EMC関連も経験して頂き、できれば当社のEMC設計のセミナーもご活用して頂きたいです。

新しいEMC設計の考え方、更にDXの方法についてご紹介致します。

*関連ページ

      MBD、EMC設計を革新

チャットGPT 、、、EMC設計に使えるのォ?

EMC設計を昨今流行りのチャットGPTで何か役立てることができるのか?当方も早々チャットGPTをインストールしてEMC設計についていろいろ質問をしてみました。

結論として、基本的にチャットGPTは会話型の検索エンジンですので、ある程度EMCの知識のある方々にとっては“まあ、それなりだな”と思われる回答が返ってきます。しかしもっと専門性の高い知識や斬新なものを期待しているとその期待は裏切られます。ただ、EMC入門者にとってはよい先生になると思われました。

しかしながら、現時点(@2023年4月)ではチャットGPTがバックグランドとしているデータが2021年9月までとなっているため、回答として最新の情報は反映されません。そのため、当社(EMC設計イノベーション.com、開業2022年2月)に関して質問しても“情報はありません”との回答になっています。(・・・・ちょっと悲しい。)

チャットGPTに似たAI検索としてBingのチャット検索(Bingの中で利用可能)も結構使えます。こちらは検索が基本なのでチャットGPTが回答ではより自然な文章で回答してくるのに対し、検索したweb内の文章(解説)を使って回答してくるので、例えば“EMC設計”について問い合わせると、関係するそれぞれのweb内の要旨(正否は別として)を効率的に見ることができます。

また、検索する対象は最新のデータ(といっても検索エンジンにヒットするレベル)なので最新の情報を収集する上で役立ちます。因みに当社関連の情報も反映されています。

EMC設計・対策は対象となる機器や装置によって異なり、またそれぞれのEMC関係に関して製品設計・製造の現場で“上手く行った”こと、“てこずった”ことなどをweb上で公開されることは殆どないでしょう。そのため、検索を基本とした上記のようなAIチャットから実践的なEMC設計・対策の回答を求めることは難しいのではないかと思います。そういったEMC課題に関しては当社のコンテンツを是非ご利用下さい。

しかしながら、今までの検索に比べAIチャット型は効率的に情報を集めることができるので、利用シーンによっては威力を発揮できるものだと思いました。

*関連記事

AI、EMC対策にも進出

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ESDスキャナで観測。でもやっぱり対策はいつものGND強化?

最新のESD対策のツールとしてESDイミュニティースキャンという評価システムが米国の会社より紹介されています。既に大手メーカーが採用しているようでした。そのシステムの概要は、ESD試験(IEC64000-4-2)に近いパルスを近傍界プローブよりピンポイントで回路基板上の任意の箇所に照射して、その際に生じる回路機能の不具合を感知する、といったことを回路基板の目的の領域に対して繰り返し行い(スキャニング)ESDパルスに対する脆弱な領域をマッピング・可視化することで機器に対するESD試験における不具合対策を検討・実施するというものです。

さすが、“ESDの脆弱箇所を可視化する”という発想が素晴らしいと思いました。この結果と従来から紹介されているESDパルスの電流の拡散状況を重ねることで、どこでESD試験による不具合を起こしている(又は起こす可能性が高い)かを見出すことができる、ということになる訳です。素晴らしいです。

ただ気になるのは、ESDパルスに対する脆弱箇所を可視化できたとして、次にそれに対してどう対策すべきかは自分で考えなくてはならない点です。センスがよい技術者はその対策方法に行きつけるかもしれませんが、多くのEMC担当者にとってはキビシイものかもしれません。

最近、上記システム(ツール)を利用して製品のESD試験対策を行ったユーザーさんによるプレゼンを聴講させて頂く機会がありました。そのユーザーさんは製品の不具合とESDの脆弱箇所との関連付けに成功したように見えました。ではその結果に基づきどういった対策をとるのかちょっと期待を寄せていたら、対策現場でよく行われる基板のGNDと機器のフレームとを銅箔で貼る(所謂GND強化?)、不具合に関係するICの端子にパスコンの追加、といったところでした。その対策がベストであったとして、使ったシステムの結果との関係性(どうやって対策方法に至ったのか)についてもう少し聞きいてみたいと思いました。あまり詳細な説明はできないといった制約があったのかもしれません。しかし、実施された対策方法が現場の担当者なら誰でもトライする方法なので、もしこの程度のものなら現状のESD対策の現場を改善とか・新たな展開を期待することは難しく、新たなシステム(ツール)を導入するメリットは小さいように思われました。

やはり、先ずESDに関する技術的・学術的理解を深めるべきです。“機器に何が起きているのか“の考え無しで、勘と経験とか導入するツールに頼ってESDの対策をするのは時間の無駄遣いに陥り易いものです。

是非当社のESDに関するセミナーをご参考にされることをお勧めします。

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ESD対策、スキャナツールの解析は有効?

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サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して

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空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?

シミュレーション設計・・・見えざるリスク・Sim結果が誤り?

昨今のDXの流れの中で、機器・装置の企画・設計プロセスでのシミュレーションツールを使った電子データ(デジタル)段階での検証に大きな期待が持たれていると思います。何故なら、その目的として従来の設計プロセスにおける各担当技術者の業務負担の軽減と設計プロセスにおける費用対効果(コスパ)の改善が期待できるからです。

シミュレーションと聞くと、何となく技術的(テクニカル)でかつ学術的(アカデミック)な雰囲気から、そこから導き出された結果について大抵の技術者は受け入れるでしょう。寧ろ結果を否定する客観的な根拠を挙げることの方が難しいと思います。“多分上手く行っているんだろう”という印象を持たれるでしょう。

でも、“シミュレーション結果が誤ったものだった!”ということもあるのです。

シミュレーションはツールとなるシミュレータ自体に問題はないにしても、そこに設定したシミュレーションモデルや条件設定には多くの課題があります。主なものを挙げますと、

①Sim対象に関する仮説(前提)に関する可否

②諸条件の可否

③設定したモデルの構造の不備

④結果に対する評価

・・・・

上記の件について私が長く経験した電磁界Simの場合に当てはめてみますと

①については極めて重要であり通常Simを行う場合、得たい結果を予測してモデルを設計していました。そもそも、こういったSimを行う目的はSim対象において起き得る問題に仮説を立て、その仮説の検証と、その問題レベルを可視化するために行うものなのです。そのためただ単にモデルをシミュレータに突っ込んでSimしたら思いがけない結果が得られた、等ということはあり得ず、“事前に課題と仮説ありき”で始めるものなのです。従って、この最初の段階で道を誤ると何の意味もないSimとなります。

②についてはSim計算を早く収束させるためにSim結果に影響が少ないだろうと思われるモデルの構造に対して簡略・省略を行ったり、Sim計算する空間を制限したりします。そういった調整がどの程度計算結果に影響するかをいちいち検証することはハード(計算機)側のリソースに制限があるのでできません。あくまで勘と経験(Simと実測の結果の比較等)で行います。

また、不要輻射(EMI)のSim等はノイズ源となるSimの信号源をどこに置くかも課題です。またその信号源のインピーダンスをどう考えるかも定まったものはありません。私の場合、今までの経験で決めていたというのが正直なところです。

③に関しては、痛い経験があります。ある構造物に関するSim結果でEMIに関して顕著な傾向が出てきたことから関係者に注意すべき点を説明したのですが、実機の測定では全くそのような傾向は現れず、よく調べてみたら作ったSimモデルに絶縁であるべき箇所が短絡していたというエラーが見つかりました。結果として、関係者に必要のない迷惑をかけ、Sim設計の信用度を落としてしまいました。やはり、シミュレーションにはオペレータによるSimモデルのエラーの見落としが起きてしまうリスクがあるのです。

④については③にも関連しますが、取り敢えずSimの計算が終わって得られた結果を見て明らかに正しい/おかしいと判断(電磁気学的、高周波回路学的に)できる場合はよいのですが、それなりの結果が出てきた時に、それをどう解釈するかが問題になる場合があります。特に3D表示で示される結果は一見カッコよく見える(ホントーは分かりにくい)のですが、“何故そうなるのか?”が説明しづらいのです。オペレータとしては説明できそうな現象に結び付けて解釈し、関係者に説明してしまうケースもあるでしょう。本来であればいくつかの条件を変化させたSimを繰り返してから結果の傾向を読み取り、それを関係者に報告すべきでしょう。しかし、一回のSimの時間に1日程度かかるような場合はSimの繰り返しは難しく、こういったSimを時間が限られた製品設計の現場に適用していくのは厳しいでしょう。

Sim結果の報告の現場で、関係者から“課題に対するSimの結果はわかりました。ではその対策方法を教えてください。”等といわれるシーンが結構ありますが、“課題に対するSimの結果”だけでは対策方法がわからないのが現実です。

電磁界Simを例にシミュレーションについて述べましたが、高度で複雑なシミュレーションになる程に第三者には見えない部分が増え、シミュレーションの精度も分かりづらくなってくるものです。最悪の場合、出てきたSim結果で研究開発の方向を誤る場合も出てきます。そのため高度で複雑なシミュレーションは複数のオペレータによって、チェックをされながら進められるべきです。しかし、電磁界Simレベルのオペレータには一人で複数の課題を担当するのが通例でしょう。やはり上述したリスクを抱えたSimとなってしまうのです。

やはり、EMC設計に適したシミュレーション活用は当社が提案しているMBD(Model Based Development)となるPDSDです。Simモデルが簡易で計算時間もごく短時間、結果が1D-グラフで傾向が分かり易い上、回路設計者であれば誰でもモデルや結果を検証し易い特徴があります。是非ご検討下さい。

*関連文献

2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用

3. 信号ラインのダンピング抵抗、当社のSD適用のSimモデルで抵抗値を設定

10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

MBD、EMC設計を革新

ループ状配線 ➡ノイズのアンテナは考えすぎ

回路基板のA/W設計において、注意すべき配線設計として“ループ状配線の回避“が挙げられています。このループという言葉の響きだけで中学生の理科で学んだコイル(ループ)から出てくる磁力線をイメージして、ループアンテナができて電波(ノイズ)が空間に放出されることを考える方もいるでしょう。

しかし、上記のコイルやループは本当に電波を受信・送信するアンテナになるでしょうか?

実際に市販されているAM帯のラジオ(526.5kHz~1620kHz)のアンテナはループ(コイル)形状を使ったアンテナです。ただこのループアンテナ、AM帯の波長に比べてかなりコンパクトだと思ったことはないでしょうか?FM帯(47MHz~108MHz)用のループ形状のアンテナもあったりしますが、それに比べても小さい形状になっています。

実は、AM帯のループ形状のアンテナは基本的に受信しかできないアンテナなのです。少しアンテナの知識をお持ちの方なら、アンテナならば受信・送信の双方ができるもの(同一アンテナの相反性)と理解されていると思います。“8. ノイズも電磁波。検出するのはアンテナ?プローブ?”でも説明しましたが、AM帯のループ形状のアンテナは空間の高周波磁界を検出するプローブであって機能としてはコイル(空芯のインダクタ)なのです。AMラジオではこのコイルで受けた高周波磁界で高周波電流を生じさせて、それにつながる同調回路によって目的となる周波数(チャンネル)を選択します。

このAM帯のループ形状のアンテナに無理やり送信周波数を入れようとしても、ループ形状のアンテナからは磁界成分しか形成できないため、“11. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(1)”の中でも述べていますが、電波伝搬として必要なTEMモード(電波伝搬方向に対して横側に電界と磁界を形成)を構成することができず、ループ形状のアンテナから電波を放射することはできません。

因みに、テレビ放送のUHF帯(470MHz~770MHz)で利用されているループ八木アンテナのループは磁界の検出ではなく電界を検出するために機能しており、コイルを巻いたループアンテナとは異なる動作原理のアンテナとなっています。(このループはその開口面を飛来電波の磁界成分側に向けて使用することはありません。)

以上のことから、回路基板の配線設計で配線形状が何となくループ形状になっているからと言ってその形状がループアンテナになることはありません。特にベタのGND層が形成された多層基板で配線した形状がループ形状であってもその配線パターンから電波(ノイズ)が放出されることはありません。但し、配線長が波長短縮の影響を加味してノイズ周波数の半端長レベルになるとループ形状等に関係なくノイズ放射のリスクは高まります。このノイズ放射のリスク回避の方法に関して当社の”SD適用(実践編)“の中で解説しております。

A/W設計の注意事項として“ループ配線を避ける”というものは所謂イメージです。そんなことよりもEMC設計実践のためにもっと注意を払わなければならないA/W設計事項があります。当社の“WD”ではEMC設計上必要とするA/W設計事項とそれを基板設計に反映させるための方法をご紹介しています。

是非、当社のPDを含めて、SD、WDをご検討ください。

“GNDが揺れている”、って何ッ?

機器のEMI(不要輻射)の対策の現場で、観測されるノイズのレベルが規制値以下になかなか下がらず、どう対策すべきか苦闘しているときに現場の担当者がよく口にするフレーズで、“機器のGND(機器の金属フレームを指す場合も)が揺れているのでは?“があります。

何気なく口にするこのフレーズ。では実際にGND電極・構造物にどんなことが起きているのか考えたことがあるでしょうか?

思いつきそうなことを下記に列挙してみました。

①GND電極の至る所で異なる電圧が発生している。(水面が波立ったイメージ?)

②GND電位の構造物の特定箇所(端部とか中央部)の電圧が±の電位で変動(振動)している。

③ノイズがGND電位の構造物にノッテ(?)いる。(憑依するイメージ?)

④GND電位の構造物がアンテナとなってノイズを放射している。

・・・・

などGND電極におけるノイズに関係した電圧について思いを巡らし、その電圧が電波(放射ノイズ)になると考えられているようです。そもそもその考え方の根底にあるのは、GND(いわゆるよいGND)の電位は常に0Vであって、それが構造物であっても至る所0Vであるという考え方があるためではないかと思います。

市販のEMCのハウツー本等では信号・電源のGND、フレームGND、システムGND等を定義して、より概念が高位(?)のシステムGNDの電位は0Vであるので、信号・電源のGND、フレームGNDはシステムGNDに対して電位差を持たないようにGND電極の電位を設計すれば放射ノイズを低減できると解説しています。(GND電位絶対説?)

理想的にはそうなのかもしれませんが、実際の機器の設計においては、信号・電源のGNDは回路基板内に形成することになります。フレーム(金属)についてはフレームに回路基板を装着・固定するために回路基板のGND電極と電気的に接続(ESD耐性や電気安全規格の関係)させるため、GND電位にします。しかしながら、システムGNDは機器の内部には存在しません。仮にEMIを測定する電波暗室の床面がそれに当たるとしても、その電波暗室の中でしか成り立たないものになります。

ではGND電極は0Vとなる電位をもつものなのでしょうか?

上記の①、②に関しては当方の技術解説<9. ノイズ電流の流れ方。その前に前提のモデルを考えて。>でも説明していますが、DC・ACに関わらず電気・電力は正負ニ極により伝送されます。そのニ極の間において正負一対の電荷が伝導していきます。電荷があるということは電位がある(0Vではない)ことを意味します。信号・電源ライン(活線)の電位は同一箇所・同一時間のGND電極の電位に対するもの(電位差)で、信号源(電源)の電圧レベルが維持されるように、GND電極の電位はその活線側に合わせて変動しています。よって0Vをキープするものではないのです。GND電位を0Vとするのはあくまで“仮定で”とか“相対的に”といった前提から設定したものなのです。

③については、上記の説明の如く、GND電極だけの単一極のみで電気・電力が流れ込むことはなく、設計者が積極的にGND電極へノイズが結合するような構造を作らない限りフレームのGND電極にノイズが“ノル”ことはないと考えられます。ただまあ、相当に運悪く電気的結合構造が偶然できてしまうという状況は全くないとは言えないかもしれませんが。

④に関しては、EMIの主要因として考えるのは難しく、フレームのGNDや回路基板のGND、更には回路基板間を電気的に接続するハーネスがある場合は、それらがEMIに対して複雑な影響を与えます。こういったEMI対策検討として、放射されるノイズの偏波特性(水平&垂直)をよく見てみることは意味があります。偏波はノイズの放射器となってしまった構造物・形態に関するヒントを与えてくれる場合があるからです。フレームがアンテナになるような場合は回路基板やハーネスと関係(電気的・構造的:“EMC設計 MBDでDX! 技術&学術”で解説)があり、そちらを先ずよく観てみるべきでしょう。仮にフレームがアンテナになっていたとして、製品の外観を形作るフレームを試作が進んでいる段階でその構造・構成を変えることは製品設計~出荷プロセスの中では極めてリスキーです。実施できないEMI対策でしょう。

いづれにしても、“GNDが揺れている”と思ったところでEMIの課題が解決する訳ではありません。課題解決のための適切な知識を持って対策することが重要です。

当方が解説しております、PD、SD、WDにおいてはフレームGND、システムGND等の考え方は必要ありません。あえて否定するものではありませんが、“特に考える必要はない”といったところでしょう。実機によるEMI測定・対策する前の段階でEMIリスクを低減できます。是非ご検討ください。

*関連ページ

22. EMC対策、グラウンド(GND)に関わるイメージに要注意!

16. GND-Via その配置間隔にルールは無い

EMC設計はGND強化! って~なんの強化なの?

7. GNDが関わる機器EMI対策につて考えてみる。

19. グランドループ➡ノイズ放射・・・過剰な妄想かも!

21. 機器・装置間の接続ケーブル・・・シールド線(GND)は両端接続が基本!

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EMC設計と言いますと、PI/SI/EMCの検討と言いますが...

本ブログに訪れて頂いた方々は既に多くのEMCのエキスパートの方々のセミナーでEMC設計を行うためにPI/SI/EMCの検討することを見たり、聞いたりしていることでしょう。しかし、この検討のEMC設計に対する可能性と効果を認めつつも、実際の機器・装置の設計・試作を行う段階でこの検討を実施されている技術者の方々は少ないのではないでしょうか?

PI/SI/EMCの検討に最適化されたツール(PCソフト)はいくつも出回っており、そのツールに設計する機器・装置の回路条件・実装条件を入れ込んで行けばEMC設計ができるはずと考え、そのツール(結構高価なものですが)を設計部門に導入して専任のオペレータも張り付けてEMC設計の検討を始めるのですが、結局設計部門では使われなくなっていく、と言った状態ではないでしょうか。

例えばPI。設計対象のIC(例えばSOC)の電源端子から見た電源ラインのインピーダンス(インプットインピーダンス:既に高周波回路理論が分からないと意味が分からない概念です)をSOCの電源端子の(負荷)インピーダンス(ターゲットインピーダンス)よりも低く設定させる検討となります。

インプットインピーダンス/ターゲットインピーダンスと、分かりにくい概念を使用しますが、基本的にはΩ単位で表現されるので、評価としては2つのインピーダンス値を比較するだけです。しかし、ターゲットインピーダンスなるものは、ICベンダー側がICユーザー側に提供されるべきものなのですが、大概の場合提供されません。またICの設計側としても算出に当たり理論的な扱いは理解できても実際のICから導出するのは難しい(面倒?)なものなのです。(但し、安全係数を掛けた適当に低い値は設定できます。)

また、ICベンダーとしては提供するICを安定動作できるために推奨回路(リファレンス)を用意しており、ユーザー側はそれを深く検討することなくそのリファレンス通りの回路を基板に実装します。結局、PI検討の出番がないのです。
これに対して、当方のPD適用はインピーダンスという概念は必要ありません。回路図設計段階で基板間を接続するケーブル経由の電源ラインを含めて検討対象のIC電源端部に設定すべきパスコンの条件を最適化できます。またこの最適化は電源ライン起因で放射されるノイズ(不要輻射)のエネルギーレベルに合わせて行うことができます。また、ICベンダー提供のリファレンス回路におけるパスコンの個数の削減検討にも利用できます。

次にSIですが、現在市販されているSIツールで行うことはSOCや各種ドライバーIC、メモリーIC等の信号受信端における信号波形の確認、更には信号波形のアイパターンの確認と言った信号波形品質をSimで確認することになります。昨今のGbpsレベルの高速インターフェースに関しては信号ラインを含めて事前にSIを確認しておくことは必須だと思いますが、10MHzレベルのCMOSロジックの信号に関して事前にSIを検討するケースは少ないのではないかと思います。実はSIと不要輻射(EMI)の関係について詳細に解説している資料・文献は無いのです。

これに対して、当方のSD適用では回路図設計段階で基板間を接続するケーブル経由の信号ラインを含めて検討する方法及びSim結果の波形からEMIに関わるデータが得られると共にその対策方法も提供しその状況をSimで確認できます。
最後にEMCですが、基本的には製造する回路基板(プリント基板)のA/W設計に対するルールチェックであり、ルールチェッカー(PCツール)を適用することになります。このルールチェッカーに関する問題点は当方のホームページ内の” 5. 回路基板におけるEMC設計の実践と検図。当社のWDを提案。”で紹介しています。チェッカーツールとしては想定されるNG項目を並び立てることがメインの機能なのでそれにまじめにお付き合いするか、無視するかはユーザー側に委ねられるので設計現場の都合からチェッカーを使う意義が問われ、結局使われなくなります。

これに対して、当方のWDではEMC設計として実施すべきA/W設計項目を規定して、その実施状況をチェックするやり方です。規定したA/W設計項目はCAD作業の際の作業指示書として作成してCAD作業者が実施したことをチェックし、このチェックの状況を基板CADの受け入れ側がチェックします。これにより基板のA/W設計段階で想定されるEMC設計上の懸念事項に対応することができます。(もしそれ以外にもEMC課題があったとしても、想定外の事柄を事前に盛り込むことは不可能です。)

もし、これらからEMC設計を検討されるようでしたら、是非当社のPDSDWDも検討候補の一つにして頂けるとありがたいです。

※関連ページ

     2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用。

     3. 信号ラインのダンピング抵抗、当社のSD適用のSimモデルで抵抗値を設定。

     5. 回路基板におけるEMC設計の実践と検図。当社のWDを提案。

     公開技術資料

     MBD、EMC設計を革新

     MBDの活用 ・・・➡現象のメカニズム理解・スキル向上の活動に