25. これがグラウンド(GND)を流れるリターン電流!

電源(又は信号源)から目的のIC等の端子に繋がる電源ライン(又は信号ライン)で流れる電流についてはEMC関連の書籍等で、“電源ライン(又は信号ライン)に沿って電流が流れていき、GNDパターン(ライン又はベタ)を通って電源(又は信号源)に戻る”、と説明されています。特に上記GNDパターンを流れる電流をリターン電流と言い、そのリターン電流が流れるパターンをリターンパスとし、このリターンパスの確保(短い・幅広といった低インピーダンス化)がEMC対策上重要なパターン設計である、と解説しています。

しかしながら、そう言ったリターン云々はどの程度重要なのか、そもそもリターン電流とは何なのか、を考えたことはあるでしょうか?

そこで、最近、電磁界シミュレータで有名なCST Studio Suite LEを個人の学習用途でダッソー・システムズ社様のWebサイトよりダウンロードし当方のPCにセットアップして、3D電磁界Simができる環境を構築しましたので、そのリターン電流なるものをこのシミュレータを使って検討してみることにしました。

Simモデルとしては図-1に示すように2本の導体ライン(HotラインとGNDライン)の一方に信号源、他方(負荷側)は開放として、信号源側から解放端に向けて電流がどのように流れるのかをSimしてみました。

図-2はその結果であり、HotラインとGNDライン周囲に表示された➡は電流の分布状況でありその大きさ及び方向性を示しています。図中、左側の信号源からの電流の流れだしに対して0.1ns後、0.5ns後、1ns後の電流分布の状況を示しています。

特徴的なことは、時間の経過と共に電源側からHotラインとGNDラインの開放端側に向けて同時に電流分布が移動していくことと、GNDラインにおいてはHotラインとは逆方向を向いた電流が移動していることです。(図をズームして観て下さい。)

特に、GNDラインにおけるHotラインとは逆向きの電流が移動していくのは奇異に見えるかもしれませんが、電磁気学的に電流とは“単位時間中に移動する電荷量”ということになるので、このSimにおける電流の移動方向と電流の矢印が一致する場合、“正の電荷の流れ”ということになり、電流の移動方向と電流の矢印が一致しない(逆向き)の場合は、“負の電荷の流れ”ということになります。これは信号源自身の電圧で押し出される正負の電荷量が等しく、それにより信号源の両端の電位差(電圧)が保たれることを意味しています。またこれは実際の動作時の電源における電力出力端(正極)とGNDとの電位差が変化しないことに相当します。

このようなSimの結果から、HotラインとGNDラインの電流は信号源側から逆平行の状態で負荷側に向かって移動していくのであって、EMC関連の書籍等で説明されているGNDパターンでのリターン(戻りのイメージ)で流れているのではないことが分かると思います。

とは言うものの、“だから何なんだ!”という声が聞こえてきそうです。実はEMC設計、特に回路基板上のパターン設計として“Hot(電源・信号)ラインとGNDラインの電流が逆平行の状態で安定的に流れるようにラインパターンの配線方向に関して、ライン間の距離やラインの形状を維持できるようにパターニングすることが重要であることが分かります。従来から言われている最短距離で配線する、GNDパターンは幅広にする、といった事柄は最優先の事項ではないのです。詳細につきましては当社が推奨しております、回路基板のA/W設計におけるEMC設計WD(Part2)のセミナーでご紹介しております。

従来のEMC関連書籍で説明されているリターン電流は、基本的に電気回路的な考え方に基づいて説明がなされており、見た目の様子からそのようにイメージするとよいという解説になっているようです。今回使用したシミュレーションは電気回路学には無い電荷、電界、磁界といった概念(電磁気学)を基に計算しており、実際に何が起きているかを可視化できています。こういったシミュレータを使うことで例えば、GNDパターンを意図的に変化させた場合とか、Hotライン-GND間にコンデンサを入れたり、ラインにコイルを挿入した際等の電流の流れも可視化することができます。単に著者のイメージで電流の流れ方を解説している書籍もあったりしますが、Simしてみると思い込みのイメージと異なっていることが分かります。詳細につきましては、当社のセミナー“EMC設計 MBDでDX! 技術&学術”の セミナーでご紹介しております。

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