ビーズ素子は信号ラインのノイズ対策として使わない方がいい

ビーズ素子はノイズ対策部品として多くの電子機器に使用されています。特に、力ずくでノイズを抑えこもうとする設計者の思想は回路基板上でのビーズ使用個数からも感じ取れるものです。現場のEMC技術者は回路動作に支障を生じなければ不要輻射(EMI)のリスクを下げておくために、出来るだけビーズ素子のインピーダンス値(@100MHzで規定されるものが多い)が高いものを回路上の各信号ライン、各電源ラインに装着したいと考えるでしょう。しかしそのEMC技術者の思いに反し、回路設計段階の設計者は部品コスト削減や部品実装面積削減の観点から効果がよく分からないビーズ素子を無駄な部品と考え、回路図に載せようとはしないでしょう。

回路図設計段階でのEMC設計を提唱してきている当社としては、何回か紹介してきましたPD適用・SD適用で、このビーズ素子の機能とEMIにおける効果を説明することができますが、ビーズ素子の効果について結論から言いますと、ビーズ素子は電源ラインにおいて極めて有効です。しかし、信号ラインにおいてはあまりよいとは言えません。寧ろ、信号ラインでは使わない方がよいでしょう。

電源ラインへのビーズ素子の挿入に関しては、回路基板内で電源回路からデジタル回路(IC)に供給される3.3V等(SOC等では1.5V、1.2V、5V等)の電源ラインにはあまり効果は期待できないのですが、他の回路基板(サブ基板)にケーブルを介してメイン基板上の電源を供給する状況においてEMI設計として効果があります。特に、供給する電源電圧が10V以上の比較的高電圧である場合によりその効果を期待することができます。詳細については当社の”PD適用”においてご説明します。

一方、信号ライン(ここではデジタル)では、特にパルス波形の立ち上がり、立下りエッジでデータ信号を検出(高速伝送で多用)するIC間の通信においてはビーズ素子の挿入により信号パルスの波形歪が大きくなるためお薦めできません。詳細は“SD適用”ご説明します。またビーズ素子はインピーダンス値(基は複素数)という回路素子としては多少曖昧さのあるものを定数値とし、且つその公差も±50%という大胆な設定となっているために、量産前提の電子機器でタイミング誤差を気にする回路設計に使用するのはそもそも不向きです。

但し、電源系の回路では電源制御の信号ライン以外のラインではタイミングやインピーダンスをそれ程気にする必要がないので、選択したビーズ素子の定数値の広い公差に対してもEMIが大きく変化することはありません。但し、電流を低損失で通過させる必要があるのでビーズ素子の直流における抵抗はできるだけ小さく、且つそのバラツキが小さいものを選択する必要があります。ケーブルを介して電源を供給する状況では特にそれらは重要なファクターとなります。

EMC対策、楽しいィ?

仕事を続ける上で苦しい・辛い事ばかりなら、誰もがその仕事から逃げ出すでしょう。

”機器のEMC対策のお仕事は楽しいでしょうか?”の質問に対して、多分多くの現場のEMC技術者は”ノォーッ”、と答えるでしょう。

何故なら仕事としての達成感を感じづらいから。(“ヤッター!”が少ない)

そもそも”EMC問題は生じない”(あるのが分かれば事前に検討しますね)という雰囲気が機器の設計現場にあるため(?)か、いざ問題が生じると担当のEMC技術者が何とかしなければなりません。担当のEMC技術者は発生したEMC問題の解決のために時間と労力をかけ、疲労感が蓄積します。機器の開発納期や回路技術者側のプレッシャーから担当のEMC技術者が追い込まれる状況になることも。こういった苦しい状況から脱して何とかEMC問題を解決できたとしても、その達成感よりもそれまでの精神的・肉体的な疲労感の方が圧倒的に大きかったりします。

やっぱり、そんなEMC対策の仕事は楽しくありません。続けられないでしょう。(昨今のコロナ禍においては大切な自身の免疫力さえ低下させてしまうかも。) 現状の多くのEMC対策現場はでき上った機器(完成品)のEMC問題(完成品を動作させて初めて実測・確認される)を解決することになるので、実際のところ打てる手段は限られます。尚、この段階で回路シミュレーションや電磁界解析を適用して問題解決(原因推定→Simモデル作成→Sim実行→対策)することも提案されていますが、それを現場のEMC技術者(シミュレータを操作できるとしても)が自ら実施するのは時間的に余裕が無く、厳しいでしょう。仮に解析結果が得られたとしても、”だからどうする?”と言った、対策として”何を実施すべきか”を見出しづらいでしょう。これは近傍界スキャナを使った測定結果を得た時も同様な状況になります。(本ブログ” EMI対策の決め手?近傍界スキャナ“を参照)

EMC技術者が長く仕事を続けていくためには、やはり事前の設計(仕込み)とその成果が実際に確認できることが繰り返される機器の設計環境が必要だと思います。上手く行った時は当然なのですが、上手く行かなかった時でも、その時の問題点を次の設計に織り込んで新たな成果を得る、といったプロセスを繰り返すことにより、EMC技術者の達成感と共に自身の設計力の成長も感じられるようになるでしょう。更にEMCの仕事に楽しさも見出せるでしょう。これによりEMCの仕事環境は大きく改善されます。

上記の事前の設計がEMC設計であって、先ずはLTspiceで始められます。これがEMC設計イノベーション(改革)のはじめの一歩となります。”どうやってLTspiceを使っていくのか?”については是非当社のオンラインセミナーをご利用ください。EMC設計イノベーション(改革)を実感できます。

EMC設計 まずはLTspiceで始めて→ノイズ対策の見え方・自分越え

この時期、TOKYO2020の選手の活躍に目を奪われます。(仕事の手も奪われます。)

今回のオリンピックから新たに採用されたゲーム(種目)は十代の若者の王国ように見えました。小さい頃に遊びで始めたことが、世界チャンピオンへと繋がり、ビックなマネー(報酬)にも結び付く・・・、今風のITビジネスにも似ているようにも見えます。彼らの王国には、若くして名声と富をつかむチャンスが満ちているのでしょう。

こういった話題からニッチなEMC設計の話題へ展開するのはかなり無理があるのですが、”まずは簡単に始めてみる”、と言ったところにちょっとフォーカスしてみたいと思います。先月末頃までEMC関連の展示会(テクノフロンティア2021)がオンライン上と実際の展示の両方で行われ、私としてはお手軽なオンラインで各社さんのホームページを見に行きました。

実際はEMC設計・対策・解析のツールに関して紹介したベンダーさんのブースに見立てたページに行き、興味のある資料を読ませていただいた訳ですが、どのベンダーさんも紹介しているEMCツールには”簡易さ・手軽さ”というものは無いように思われました。(カッコイイ資料になっているほど素人肌の技術者には壁の高さを感じるものです。)対象としているユーザー像は”この道何年(EMCの苦労さが分かっている)”といった玄人向けで、お値段も(?)百万円(でしょうか?)しそうなもので、会社に所属しているEMC技術者の方々でもそう簡単に始められる(導入できる)といったものではないでしょう。

更に、昨今のコロナ禍においてはベンダー側・ユーザー側双方ともに気軽に実際のツールのデモができる状況ではないでしょう。またこの状況は暫く(数年)続くでしょう。

もし、もっとお手軽にEMC設計・対策・解析のためのツールを始められ、その使い方に慣れ、ツールの適用効果を実感し、そしてその効果がベンダー提供の高価なEMC関連ツールと同等(イエッ、それ以上)の効果が得られるとしたら、言うことは無いでしょう。理想かもしれませんが、それに近い方法を当社はセットメーカーのEMC技術者に当社のオンラインセミナーで提供致します。使用するツールは基本的にLTspice(ライセンスフリー)なのでお手軽です。

LTspiceを始めてみたいという技術者の方にも良い機会になると思います。また、LTspiceをきっかけにEMC関連に止まらず、多くの回路設計シーンにSPICE-simを適用できるSPICEの使い手になって頂きたいと思っています。

最初の話題に戻りますが、遊びで始めたことに面白さを知り、何回も練習して難しい技ができる体験(自分越え)を繰り返すと、更にその面白さにとりかれて、いつの間にか世界トップレベルに達した、というのが彼らなのでしょう。

ちょっと無理がある展開かもしれませんが、回路技術者にとってSPICEは回路動作を論理的に説明できるツールです。難しい回路動作をSimモデルで実現できたりするとSPICEの使い手として嬉しさを感じるものです。回路設計技術における自分越えを実感できます。使い込んでいけば、何時しか社内トップクラスのSPICEプレヤーになれるでしょう。 技術者にとっての一生の武器になり、多分お給料も上がっていくでしょう。・・・ただまあ、保証はできませんけど。