本題の前2回の解説でノイズという電磁波について下記のようにまとめました。
①電磁波の電場Eと磁場Hは垂直の関係です。
②電場Eと磁場Hの一方が減少又は0になると伝搬する電磁波も減少又は0になります。
③電波はTEMモード(電波の伝搬方向に対して横方向に電場E 、磁場H )です。
④TEMモードの電磁波は電場Eと磁場Hのベクトル積となるポインチングベクトルSを持つ。
⑤ポインチングベクトルSが空間に向かうことで電磁波(ノイズ)は空間に放射されます。
⑥実際の機器ではケーブルのコネクター部でポインチングベクトルSは空間に向かう形態となっています。
⑦PD適用、SD適用はポインチングベクトルSのスカラー量を低減する回路的手法です。
今回は上記の事柄を踏まえて、回路基板上の配線を伝送する電磁波について触れ、上記の⑥について説明します。
下に示す図は信号源(ノイズ源)から負荷に向かって回路基板上の配線を電磁波(ノイズ)が伝搬する状況を説明した図です。
先ず信号源はその電圧により信号源に繋がる配線の一方(Hot)の側導体に電流(i)を流出させます。この時、それと同時且つ同量の電流を信号源に繋がる他方(GND)の側導体より流入させます。電荷で説明すれば、信号源はHot側に電荷(+q)を供給し、GND側より同量の電荷を取り込む関係になります。この正電荷を取り込むという状態は、”信号源が負の電荷(-q)を供給する“、と物理的には同義になります。
よって信号源から同時に同量の電荷+qと-qが配線のHot側導体とGND側導体にそれぞれ供給されるので、Hot側導体とGND側導体の対向する空間で電荷+qから電荷-qに向かって電場E が形成されます。この電場E は電荷+qから出た電気力線のすべてが電荷-qに向かうため、divD = div εE = 0 となります。
また、配線に流れる電流についてみると、Hot側に電流iが流れる場合、GND側にも同量の電流が流れますが、その時、電流の流れる方向は反平行の関係になるため、Hot側の電流iに対してGND側は電流–i が流れることになります。前述の電荷の状況を考慮して配線を流れる電流を述べると、信号源からHot側導体とGND側導体に流れる電流は、一方に電流i、他方に電流-iがペアになって負荷側に向かって伝搬することになります。この電流のペアがそれぞれの導体に形成する磁場はHot側導体とGND側導体が対向する方向の面に対して垂直の方向に磁場Hを形成します。
このような電場Eと磁場Hが形成されるため、前回説明したように電場E、磁場Hにより形成されるポインチングベクトルSが形成され、Sは常に負荷側に向く形になります。将に、信号源の電力は負荷側に向かって伝搬していくことを示します。
図では、信号源が高周波(交流)であってもSは常に負荷側に向く状況を示しています。更に、ポインチングベクトルSはHot側導体とGND側導体が対向する空間内に保たれており、外界を向くことがないことも示しています。これは電磁界解析を使ったシミュレーションでも確認できますが、2本の導体(伝送インピーダンス一定)で信号源と負荷を繋げたモデルでは殆ど放射が起こらないことを意味します。
よって、4層基板等で第2層をGNDのベタパターンとして、そのGND上の第1層で長い配線や周回(ループ)状のパターニングを行ったとしても、その配線からノイズが放射されることは無いのです。但し、問題になるのは回路基板上の配線と外部のケーブルを接続するコネクター部でそれぞれの配線の断面形状が変化するために、配線の構成する導体間に保持されていたポインチングベクトルSが外部の空間に向く状況ができてしまうことがあります。この外界に向いたポインチングベクトルSが不要輻射(EMI)となります。
ポインチングベクトルSを外界に向けないように機器を設計するのは困難ではないものの、EMC対策コストを増大させるものとなり、そのコストは機器のユーザーにとって価値のあるものにはなりません。そこで上記の⑦で上げているように、当社が提唱しているPD、SDを使ってポインチングベクトルSのスカラー量を低減する回路的手法が適しています。EMC対策に対する費用対効果がよい上、回路シミュレーションを使うので機器の回路動作の事前確認にもなります。
是非、当社推奨のEMC設計、PD適用、SD適用をご検討下さい。
関連ページ