EMCへのAI技術活用を学術レベルで検討

当ホームページではEMC設計・対策へのAI活用として“チャットGPT 、、、EMC設計に使えるのォ?”、“最新チャットGPT4o、 またEMC設計を聞いてみた”、“EMCの現場でありそうな課題をAIに聞いてみた。”、等を紹介してきましたが、これらは何れもAIエンジンを使った既存のホームページ等で紹介されているEMC関連の情報を検索し、それらをまとめた形で回答するというものであって、人によっては目新しいかもしれませんが、全く新しいアイディアを提供してくれる、というようなものではありませんでした。

最近あるシンポジュームで“EMC対策へのAI活用”に関するものがあり、参加・聴講してきました。ここでのAI活用はビッグデータに対する機械学習を応用したもので、ノイズ予測、EMC設計の最適化のために、機械学習や最適化アルゴリズムをEMC設計・評価支援に向けて、その可能性と課題について講演されていました。

現状においてEMCの課題の検討の際には、EMCに関わる現象は全て電気・電磁界の法則によって支配されているので、それらの法則に則った検討(ツール)により解析するのが一般的なアプローチだと思います。

これに対し、上記のAI(機械学習)によるアプローチは極端な言い方になるかもしれませんが、関係する法則等をブラックボックス化して、被試験機に対して簡易な方法で得た測定値から、本来の規程に準拠した該被試験機のEMIノイズ測定値を予測・推定する、と言ったやり方です。

規定に準拠したEMI(不要輻射)の測定は、電波暗室やそれに関わる測定機器と言った大掛かりな設備を必要とし、且つそれらを準備・測定・操作(後片付けも)するといった人工やそれに伴う時間(数時間)も必要で、それなりにコストと時間を消費します。しかし、このAI活用はそういったコストと時間を改善できる、と言ったことが期待できる訳です。

この方法に関して実践されているあるメーカー様が講演され、興味ある内容で、多少私の誤解釈もあるかもしれませんが、下記のような流れでした。

①被試験機としては、車載の電源ボックス

②簡易な測定としては、その電源ボックスとそれに繋がるハーネス群の表面(全てではなく特定箇所)の近傍磁界

③準備として、電源ボックスの部品・実装条件をいくつか変化させてその際の近傍磁界と放射ノイズを測定

④上記の測定結果をビッグデータとして機械学習し、最適化アルゴリズムを生成

~ここまでが事前準備~

⑤実使用として、評価する被試験機の表面の近傍磁界の測定を行い上記の最適化アルゴリズムを用いてEMIの測定結果を予測。予測のための計算時間は数分程度(?)のようでした。

このAIの予測値に関して、実際の規定準拠の測定値との差は+3dB程度のようでしたので、予測としてはかなり確度が高いと思われました。

ただ、気になる点として、

❶上記のような事前準備の状況をみると被試験機は外観が略同一の機器にしか適用できず、同一機能でも異なる形状の機器や全く機能の異なる機器に適用する場合はそれぞれ新たに適用させるための事前準備が必要になるように思われました。(結構面倒!)

❷規格値よりも10dB程度下のレベルでは予測値の確度の3dBは高い精度と考えられますが、規格値付近のレベルまたはそれ以上になると、予測値としては確度が高いとは言えず、本来の測定をしてみなければ安心できない値となります。(結局やってみないとわからない!)

当ホームページの“14. 電磁波における遠方界と近傍界。EMC対策では重要です。”でも記していますが、単純に近傍界の電場磁場の測定をもって遠方界の電磁場を想定することはできません。しかし、近傍界、遠方界の電磁界の関係をAIの機械学習によってその機器固有の電磁界の関係を構築できれば、

近傍界測定結果➡AI適用(ブラックボックス)➡予測遠方界(EMI)測定値

となることに対して矛盾はなく、EMCにおけるAI活用の可能性を示したものだと思われました。ただ、その実用性に関しては更なる検討・改良が必要でしょう。

関連ページ

  チャットGPT 、、、EMC設計に使えるのォ?

  最新チャットGPT4o、 またEMC設計を聞いてみた

EMCの現場でありそうな課題をAIに聞いてみた。

14. 電磁波における遠方界と近傍界。EMC対策では重要です。