数年前から、「機器のEMC対策にAI(Artificial Intelligence)を導入してみよう」、という話がちらほら聞かれていました。その背景の一つといて、機器のEMC評価・対策の現場を担ってきた熟練技術者の勘や経験を若い世代の技術者に伝承させていくためのツールとしての期待があったようですが、それ以上に、「誰でもEMCの仕事ができるようにする」、という要求の方が大きいでしょう。
私の現場での経験の中でも、若いEMC技術者が担当した機器でEMCの問題が起きて、なかなか解決できない状況の時に、百戦錬磨の熟練EMC技術者が出てきて、何とかEMCの問題を解決していった、ということが何回かありました。また業界的にも、「EMC対策は長年の勘と経験がものをいう」、と言った傾向があります。
ただ、今になって考えると、熟練EMC技術者はEMC問題に対する観察の仕方と、それに対する対処方法の選択に慣れていただけで、若いEMC技術者はまだそれに慣れていなかっただけではないかと思われます。確かに、そういったEMC対策技術の習熟に長い時間が掛かるので、それを補うために”AI”を、と考えられたのかもしれません。しかし、これはあくまでEMC問題発生に対する対処法であって、根本的なEMC対策ではないのです。
では根本的なEMC対策とは何でしょうか?それは、機器の回路設計の段階でのEMC設計として課題となるノイズを低減させておくことです。このEMC設計は回路シミュレーションで事前に検証が可能です。それがちゃんと実施されていないために、前出の熟練EMC技術者は本来であればしなくていい施策を機器に行っていたのかもしれない、とも考えられるのです。しなくてもよかったEMC対策のためのAI適用になっているとしたら、誰しも無駄なAI適用と思うでしょう。
最近、AIエンジンを搭載したEMC対策ツールがツールベンダーから出てくるようになりました。その詳細については説明文レベルでしかわかりませんが、実際の機器のEMIを測定結果からその原因を蓄積した(inputした)過去の測定データを参照してEMIの原因特定を補佐するといったもののようでしたが、その対策方法については提案してくれないようでした。これでよいという技術者もいるのでしょう。ただ、私の経験としては、原因不明のノイズ放射ということはあまりなく(大概ノイズ源は特定される)、どうすれば実機に後付けで効率よくノイズ放射を低減できるかが問題でしたので、対策方法を提案(それもスマートな)してくれないのは残念だなと思いました。AIをEMC対策に導入するのであれば、EMC評価前にリスクと事前の対処を提案できるものであってほしいと思います。
そもそもセットメーカーの関係者であれば、設計機器のEMCのリスクは事前にある程度予想がついている筈です。ただ、それを知りながら大した対策を取らないまま(担当者の認識不足の場合もあります)試作まで進めて、やっぱり問題になった、ということが結構あったように思います。こういったことはAIを使うまでもなく、事前にできる検討をしておくことが、根本的なEMC設計になるでしょう。その事前にできる検討ツールとして、当社の”PD適用”、”SD適用”をご検討頂きたいです。
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