EMC設計に関する件で、回路基板(プリント基板)のCAD設計時にEMI(不要輻射)を低減するための設計ルールを適用させるため、作成した基板CADに対してEMC設計ルールのチェックを行うチェッカーツールを使った基板設計段階でのEMI対策がEMC関連の文献やハウツー本等で解説されています。
その中で、よく紹介されている”やってはいけないパターン構成”の例として、GNDのベタパターンに形成された細長い余白(ギャップ・スリット・スロット等とも呼びます)パターン上を信号線(GND層の上層に形成)が余白パターンを短手方向に横断していく構成のものがあります。ここではこの構成を”ギャップ跨ぎ”と呼びます。
このギャップ跨ぎに関して私はかつて電磁界解析ツールを使ってEMIの状況を検証したことがあり、余白パターンの有り・無しの解析結果を比較すると有りの場合EMIは10dB以上のレベルで悪化していました。そのため注意すべき構造であることは理解できました。しかし、そのSimモデルを作成している時に思ったことは、実際の基板CAD作成時にGNDのベタパターンを細長く切り欠いて余白パターンを形成する蓋然性は殆どなく、またその余白パターン上に信号配線が形成される蓋然性は更にない、ということでした。尚、この”ギャップ跨ぎ”は一般的に呼ばれる”GND跨ぎ”、”電源跨ぎ”(この回避方法については別途”WD-PartII”で紹介します。)とは別のものであって、ギャップの長手方向の両端でパターンが繋がっている形状(スロット)であるものとしています。
蓋然性に乏しい、誰でも回避しようとするだろうパターン構成に何故EMC関連の文献やハウツー本はその解説にスペースを割くのでしょうか?また、EMI悪化の原因として”スロットアンテナ”が形成されるためとの説明が必ずあります。この”スロットアンテナ”の説明についても違和感を覚えます。
そもそもスロットアンテナは上述のスロットの長手方向の長さが放射する周波数の半波長を必要とします。また、スロットの長手方向の長さは放射する電波の磁界成分の半波長を必要とするので、回路基板を構成する誘電体による波長短縮も受けません。そのため、例えば1GHzの電波が放射されるためにはスロットの長手方向の長さは150mmとなります。こんなに長いスロットが基板のGND層に形成される可能性は極めて低いでしょう。まして、MHz帯のEMIでスロットアンテナが原因となることは無いでしょう。
私が”ギャップ跨ぎ”の構造を電磁界解析した時はスロットアンテナが形成される形状で解析したわけではなく、スロットは周波数の半波長に比べてかなり短い長さで検討しましたが、EMIの悪化は確認できました。このEMIの悪化はスロットアンテナによる効果ではなく電磁波が空間に向かって出ていく条件が偶然揃ってしまうためなのです。(それがアンテナではないかと言われるかもしれませんが、スロットアンテナの原理とは違うということです。)それは”ノイズ(電磁波)が何故放射されるのか?”の真因となるものです。コモンモード等は全く関係ありません。(コモンモード関係はこちらをご参考に。)
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