シミュレーション設計・・・見えざるリスク・Sim結果が誤り?

昨今のDXの流れの中で、機器・装置の企画・設計プロセスでのシミュレーションツールを使った電子データ(デジタル)段階での検証に大きな期待が持たれていると思います。何故なら、その目的として従来の設計プロセスにおける各担当技術者の業務負担の軽減と設計プロセスにおける費用対効果(コスパ)の改善が期待できるからです。

シミュレーションと聞くと、何となく技術的(テクニカル)でかつ学術的(アカデミック)な雰囲気から、そこから導き出された結果について大抵の技術者は受け入れるでしょう。寧ろ結果を否定する客観的な根拠を挙げることの方が難しいと思います。“多分上手く行っているんだろう”という印象を持たれるでしょう。

でも、“シミュレーション結果が誤ったものだった!”ということもあるのです。

シミュレーションはツールとなるシミュレータ自体に問題はないにしても、そこに設定したシミュレーションモデルや条件設定には多くの課題があります。主なものを挙げますと、

①Sim対象に関する仮説(前提)に関する可否

②諸条件の可否

③設定したモデルの構造の不備

④結果に対する評価

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上記の件について私が長く経験した電磁界Simの場合に当てはめてみますと

①については極めて重要であり通常Simを行う場合、得たい結果を予測してモデルを設計していました。そもそも、こういったSimを行う目的はSim対象において起き得る問題に仮説を立て、その仮説の検証と、その問題レベルを可視化するために行うものなのです。そのためただ単にモデルをシミュレータに突っ込んでSimしたら思いがけない結果が得られた、等ということはあり得ず、“事前に課題と仮説ありき”で始めるものなのです。従って、この最初の段階で道を誤ると何の意味もないSimとなります。

②についてはSim計算を早く収束させるためにSim結果に影響が少ないだろうと思われるモデルの構造に対して簡略・省略を行ったり、Sim計算する空間を制限したりします。そういった調整がどの程度計算結果に影響するかをいちいち検証することはハード(計算機)側のリソースに制限があるのでできません。あくまで勘と経験(Simと実測の結果の比較等)で行います。

また、不要輻射(EMI)のSim等はノイズ源となるSimの信号源をどこに置くかも課題です。またその信号源のインピーダンスをどう考えるかも定まったものはありません。私の場合、今までの経験で決めていたというのが正直なところです。

③に関しては、痛い経験があります。ある構造物に関するSim結果でEMIに関して顕著な傾向が出てきたことから関係者に注意すべき点を説明したのですが、実機の測定では全くそのような傾向は現れず、よく調べてみたら作ったSimモデルに絶縁であるべき箇所が短絡していたというエラーが見つかりました。結果として、関係者に必要のない迷惑をかけ、Sim設計の信用度を落としてしまいました。やはり、シミュレーションにはオペレータによるSimモデルのエラーの見落としが起きてしまうリスクがあるのです。

④については③にも関連しますが、取り敢えずSimの計算が終わって得られた結果を見て明らかに正しい/おかしいと判断(電磁気学的、高周波回路学的に)できる場合はよいのですが、それなりの結果が出てきた時に、それをどう解釈するかが問題になる場合があります。特に3D表示で示される結果は一見カッコよく見える(ホントーは分かりにくい)のですが、“何故そうなるのか?”が説明しづらいのです。オペレータとしては説明できそうな現象に結び付けて解釈し、関係者に説明してしまうケースもあるでしょう。本来であればいくつかの条件を変化させたSimを繰り返してから結果の傾向を読み取り、それを関係者に報告すべきでしょう。しかし、一回のSimの時間に1日程度かかるような場合はSimの繰り返しは難しく、こういったSimを時間が限られた製品設計の現場に適用していくのは厳しいでしょう。

Sim結果の報告の現場で、関係者から“課題に対するSimの結果はわかりました。ではその対策方法を教えてください。”等といわれるシーンが結構ありますが、“課題に対するSimの結果”だけでは対策方法がわからないのが現実です。

電磁界Simを例にシミュレーションについて述べましたが、高度で複雑なシミュレーションになる程に第三者には見えない部分が増え、シミュレーションの精度も分かりづらくなってくるものです。最悪の場合、出てきたSim結果で研究開発の方向を誤る場合も出てきます。そのため高度で複雑なシミュレーションは複数のオペレータによって、チェックをされながら進められるべきです。しかし、電磁界Simレベルのオペレータには一人で複数の課題を担当するのが通例でしょう。やはり上述したリスクを抱えたSimとなってしまうのです。

やはり、EMC設計に適したシミュレーション活用は当社が提案しているMBD(Model Based Development)となるPDSDです。Simモデルが簡易で計算時間もごく短時間、結果が1D-グラフで傾向が分かり易い上、回路設計者であれば誰でもモデルや結果を検証し易い特徴があります。是非ご検討下さい。

*関連文献

2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用

3. 信号ラインのダンピング抵抗、当社のSD適用のSimモデルで抵抗値を設定

10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

MBD、EMC設計を革新

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