32. ESD対策、物理屋が出番?ESDガンの特性はやっぱり物理的!

電気回路の中でコンデンサは交流電流を流す素子として扱われますが、その素子の中でどのような動作で電流が流れているのか、までいちいち考えながら扱っている方はいないでしょう。コンデンサは誘電体を2つの電極で挟んだ単純な構造ですが、その電極間では電荷(電子)が誘電体の中を移動して電極間の電流を流すということではなく、電極間の電場の変化(交流電場)によって2つの電極にそれぞれ異なる極性の電荷を溜め、次の瞬間にその電荷を送り出すといった動作を繰り返すことで交流電流が流れます。

但し、この時交流電圧Eが掛かるタイミングとそれによる交流電流Iのタイミングにズレが生じます。その時の状態はオームの法則で表すことができ、I = jωCEとなり、jは虚数で交流周期の1/4(複素平面で90度)を表しますから、交流電流Iは印加される交流電圧Eよりも交流周期で1/4周期早いタイミングで流れることを表します。このような電流の流れ方を変位電流(電束電流)と言います。

ここで、前述したコンデンサの誘電体を空間とした場合を考えます。2つの電極が対向した所謂空気コンデンサの形態となりますので、2つの電極間に交流電圧が印加されれば、変位電流が流れます。この変位電流は、交流の様な周期的な交番電圧でなくても静電気放電のような瞬間的な電圧変化であっても流れます。そのため、電極が対向した空間で電極間の電圧がパッシェンの法則を満たす電圧に達するまでは変位電流が流れますが、パッシェンの法則を満たす電位差になると電極間には火花放電が発生し、今度は電子による実電流が流れます。この時電子が空間を自由飛行するとイメージされる方もいますが、通常の空気の空間の場合は空気を構成する気体がイオン化(プラズマ化)することにより、そのイオン間の電子の授受を介して電子伝導が行われます。そのため、流れる電流量は変位電流の時に比べ千倍以上の電流となって流れます。また、火花放電が起きるときは一般的にはグロー放電が起き、その後更に十分な電力が供給されるとアーク放電に移行します。アーク放電の特徴は定電流特性です。

このことを踏まえてIEC-16000-4-2で示される放電ガンの電流特性のグラフを観ますと、第2ピークの時間帯は電流変化が比較的小さくなっており、極めて短時間に電力が注入されることによるアーク放電ではないかと思われます。アーク放電は電力の供給が低下し且つ、アーク(陽光柱)が立っている周囲の温度が低下すると消滅します。これに対し、第1ピークの瞬間の前半は電極間の電位差の上昇と共に放電路となる領域の気体のイオン化が進行したストリーマと言われる状態となり、発光が無い(発光する場合もあります)ものの電子伝導ができる状態となります。第1ピークの瞬間の後半はグロー放電として発光を伴う火花放電を生じると共に、電極間の電位差が急激に低下し、電子伝導による電流量も急激に低下していきます。よって、電極間に変位電流が流れるのは電極間に電位変化が生じた最初の極短時間(0.1~0.3nsレベル)だけではないかと考えられます。

ESD関連の記事ではESDガンによるESDパルスの印加後、変位電流や磁気的誘導電流によりスペースのある導体パターン間であってもESDパルスは流れ込んでいく状況を電磁界シミュレーション等の表面電流の可視化から説明されたりしますが、実は先に説明したようにESD印加時は通常の電気回路学や電磁気学とは異なるダイナミックな物理的反応によって電圧及び電流の分布が変化するため、通常の電磁界シミュレーションで解析するのは困難なのです。詳細につきましては“27. ESD試験時の2次放電発生の予見をsimで確認・・・これが不具合原因!”をご覧ください。

しかし、電磁界シミュレーションによって火花放電前はどのような状況なのか、また火花放電を起こしやすい部位等があるのか、等を可視化することは可能です。当ホームページの記事“サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して”にもある様に、当方はESDガン印加後の2次放電の発生を重要視しており、その発生抑止が重要なESD対策と考えております。詳細は“ESD試験(IEC61000-4-2)対策に関する技術資料”をご参照ください。また、火花放電発生と機器の不具合発生との因果関係についてはまた別の記事でご紹介したいと考えております。

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