ESDガンを使ったESD試験(IEC61000-4-2)に関するシミュレーションに関しては、タイムドメイン(トランジェント)を使った電磁界シミュレータにより電流・電圧の状況を可視化できることをいくつかのシミュレータベンダーより紹介されています。また、私も現役時代に被試験機に対してSimによる可視化を行ってきました。但し、そのシミュレーションはESDガンを被試験機のフレーム(通常はGNDに接続)に接触させる接触放電試験向けであって、気中放電試験を対象としたものではありませんでした。
そこで接触放電と気中放電で何が違うかというと、先ず接触放電試験ではIEC61000-4-2の規定に準じたESDの電流波形(規定されたファラデーゲージで観測)を被試験機のフレーム等に直接印加する形式ですので、ESDガンによる試験環境を電気回路学と電磁気学の知識を駆使してモデル化すればトランジェント系の電磁界シミュレータでSimすることができます。それに対して、気中放電はESDガンのチップ先端と被試験機のフレーム等の間の小空間(ギャップ)を設定してそのギャップで火花放電を起こしてESDの電流を印加する形式となります。この時の火花放電をシミュレータに取り込むために電気回路学とか電磁気学を適用してのそのモデル化は困難だったのです。
火花放電にはいろいろな特徴がありますが、根源的にはプラズマ現象で生じているため物性物理学的な要素を持ちます。それに伴う電気的な性質として、
①ギャップが特定の電圧差に達するとプラズマ(火花放電)が生成し、(パッシェンの法則)
②ギャップの電気抵抗は無限大から略0に変化します。(ギャップ・陽光柱は定電流特性)
③発生プラズマには継続できる時間(nsレベル)があり、
④前述のギャップの電圧差(放電開始電圧)よりも多少低い電圧差まで継続します。(続流現象)
⑤当然のことながらプラズマが消滅するとギャップ間の電気抵抗は略0から無限大に変化します。
かつて、とあるシミュレータベンダーからこのギャップに抵抗モデルを適用することにより気中放電をシミュレートできるとの提案がありました。しかし上記①~⑤の事柄をシミュレートするのは無理ではないかと思われました。
しかし、最近EMC・ノイズ対策技術展を見学しまして、ESDの新種のシミュレーションソルバーが提案されているのをたまたま目にしました。
詳細についてはよく分からないのですが前述のギャップ空間にプラズマに関する物理的な連立方程式を適用しモデル化して、プラズマ発生をシミュレートさせた、とのこと。等価回路の適用等という無茶な方法ではなく、本質的なプラズマ現象を適用した点は“サスガ!”と感じました。説明員の話によると計算結果は完全ではないもののパッシェンの法則に従うという。すばらしい!
そのシミュレーションの簡単なデモを展示会のブースで見させてもらいましたが、かなり期待できる気がしました。ただ、火花放電が起きそうな箇所に先ほどのプラズマを計算するための物理的空間を適用し、それ以外の空間には、電磁界空間を適用するという形式になるため、適用先は限定されるかもしれませんが、例えば気中放電試験で得られた結果に対する解析のためには極めてよいと思われました。
当社はESD試験対策について当社のHPの記事、“ESD対策、スキャナツールの解析は有効?”の中でも記載しておりますが、ESDガン印加による2次的火花放電の発生を疑うことを紹介しております。将にこの可視化検討Simとして、有効なツールになり、新たな知見が得られるものと思われました。
このようなESD試験検討後の対策に関して有効な施策の例を当方のIEC61000-4-2(Part-II)とセミナーの中で解説しております。是非ご参考にして頂きたいです。
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