9. ノイズ電流の流れ方。その前に前提のモデルを考えて。

EMCの業界誌の文献やハウツー本を読んでいると、ノイズの原因としてのノイズ電流の流れ方をよく説明しています。シナリオとしては回路基板上の配線パターンにノイズ(高周波)電流が流れることにより、その電流の周囲に高周波磁場を作り、これが不要輻射の原因になるというイメージを付加したモデルで説明しています。そのモデルに関してはここでは触れませんが、配線パターンを流れる電流についてここで触れてみたいと思います。

前述の文献やハウツー本の中では電流について、正の電荷の移動としたり、負の電荷の移動として、その負の電荷は電子であると解説したりして、電気回路の入門者や物理学から電気回路を始めた人々を翻弄させます。中学生位に”電流は電池の正極から負極に流れる”と習い、高校の物理や化学を習うと、”電気は電子の移動”となり、電流は”正→負”なのか、”負→正”なのかチンプンカンプンの状態で電子機器の設計に関わっている方々も多いのではないかと思います。教科書を書かれるレベルの諸先生の中にも、物理学が十分に完成されていない状況下で電気の極性を決めてしまいその結果、電気伝導を担う電子の極性を負にせざるを得なかった、等と説明される方もおられます。確かにそういった側面もあるのかもしれません。

しかし、私の見方としては電子の極性はむしろ正しく、何の矛盾もなく電気回路-電磁気学-物理-量子力学-化学の各学術領域を関係づけていると考えています。そもそも各学術領域では、自然科学的な現象を説明するためにそれぞれの法則等に基づいたモデル(→方程式が立ち計算できる)で説明されます。例えば電気回路では電流を単位時間当たりの電荷量の流れと規定するので、電子をわざわざ持ち出す意味は無いのです。(コンデンサの帯電で正側の電極に+Q、負側の電極に-Qが帯電するので帯電電荷量は+2Qでは?と悩んだことはありませんか?これは電磁気学の考え方なのです。)

では電磁気学ではどうか?電磁気学でも電子を扱う必然性がありません。そもそも電磁気学で最初に習うのは電荷(クーロンの法則等)です。また電気回路に最も近い領域を扱う分野は”定常状態”という条件下での振る舞いです。そこでは電流の扱いもあり、dirD = 0の条件下(詳細については別の場で説明します。)となり、簡単に説明すると、電源から負荷に向かう一対の配線に正の電荷と負の電荷(電荷の絶対量は等しい)が対になって移動していきます。正の電荷が負荷側に移動するのはイメージし易いと思いますが、同時に負の電荷が負荷側に移動している状況は多少イメージし辛いかもしれません。これについては、当社の”EMC設計 背景説明“で詳しく説明します。(この点が電磁気学ではコモンモード電流が存在しない理由になります。)

物理学(特に物性物理)の領域に至って電荷での説明では困難を生じるので電子(ドナーと呼ぶ場合もあります)を用いるようになります。これと対になるのが正の電荷を示す正孔(アクセプターと呼ぶ場合もあります)ですが、これは電子のような粒子ではなく電子が抜けたアナなのですが電子と同様な粒子性と波動性(量子力学的)を示し、これらは化学で言うところの電気伝導に関係するイオンや不対電子となります。これらにより物理と化学では電気の説明について矛盾なく結びつきます。

では電気回路との関係はどうでしょうか?単純な例として電池(直流)で作った回路で説明します。電池の負極から電池内部の化学反応により回路側に向かって電子が流れ出します。これと同時に電池内部の化学反応で流失した電子を補うために、電池の正極は回路側から電子の取り込みを行います。この状況をよくイメージしてください。電子(負の電荷)を電池の正極から取り込む(流出の逆)ということは結局、正の電荷を回路側に送り出しているのと等価であることに気づくでしょう。即ち、電気回路の領域では電源の正極から回路に向かって電流(正の電荷)が流れると考えることに何の問題もないことがわかるでしょう。

現象を説明するモデルがどういった学術領域からのものかを意識すると、変な横槍に対抗することができます。EMCの現象を説明するモデルについても同様です。電気回路の立場からか、電磁気学の立場からか、よく考えておきましょう。

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