WD は回路設計者・回路基板設計者・EMC 技術者に是非ご説明したい、機器・装置の設計において回路図設計段階から回路基板(配線基板・プリント基板)のCAD 設計段階へ進める際に行うべきEMC 設計です。特に、回路基板のCAD 設計を外注委託されている機器・装置のメーカー様には是非ご検討して頂きたい設計です。WD とはWiring Board Design for EMC の略称です。
セットメーカー様においては、機器・装置の設計レビュー等の検討会を経て回路図を正式承認して、回路基板(配線基板・プリント基板)のCAD 設計段階へ進める許可を得る、といった関門を設計部門の中に設けて機器・装置の設計→ 試作→ 量産の各ステージを進めていると思います。そして、回路基板のCAD 設計段階へ進んだ後、そのCAD データがあがってくると、関係者で目視検図、あるいはメーカー様によってはEMC チェックツール(チェッカー)等を使ってデザインルールチェックをされていることでしょう。その時、もしEMC 的に問題(かもしれない)箇所が見つかった場合、容易な修正であれば、その修正を実施するでしょう。しかし、多少大きな変更を伴うパターンの修正については、多分その修正を実施しないでしょう。何故なら、修正のための時間のロスと費用(工数)のロス(外注設計ならなおさら)が生じ、且つ再検図の時間もかかりますから、機器・装置の設計→ 試作→ 量産のスケジュール管理者としてはその遅れを回避し、先に進めることを優先するでしょう。
どこのセットメーカーでも同様ではないかと思うのですが、設計のスケジュールには後戻りのような予備的な時間は初めから設けてはいないでしょう。そのため、設計のスケジュールを守るために設計上多少問題があったとしても” その問題を解決しながら” 、を条件に次なる段階へ進めるのでしょう。基本的に工程に後戻りはない、させない、という意気込みで設計の現場の方々は仕事に取り組まれていると思います。
こういった仕事の進め方の下で、先ほどの回路基板CAD の検図の話に戻ると、目視による方法は、個人差× 検図対象箇所の曖昧さ× 重要度評価差、等があるために、十分に意味のある検図ができるか、不安定要素だらけです。これに対し、EMC ルールチェッカーの適用は自動化と共にチェック対象の明確化が期待されます。しかし、このチェッカーは回路基板CAD の回路自体を理解することは無いので、チェック対象の配線につけられている配線名から信号ライン、電源ラインを判別してEMC 設計としてそれぞれに相応しいデザインルールと比較します。そして回路基板CAD のチェック対象のデザインに対して、EMC リスクを判定してくれます。そのため、回路図の配線全てに名前がついている必要があります。これが結構面倒で、時間が掛かります。
また、チェッカーは各ラインのデザインに対してEMC リスクを判定してくれますが、重み付け的な判定なので、ユーザー側がチェッカーのリスク判定(重度・中程度・軽度等)に対してどう対応するかを判断しなければなりません。更にチェッカーは、ユーザーが設定するルールチェックの項目数にもよりますが、非常に多くのチェック箇所を指摘してくれます。回路基板の大きさによっては1000 箇所以上にもなります。チェッカーベンダーの考え方としてはできるだけ多くのリスク情報をユーザー側に提供したいのでしょう。ユーザーにとってそのチェック箇所を確認するだけでも結構大変な場合もあります。そういったチェック箇所に対して、中度・軽度だからといって簡単に無視してよいのか、重要と判定されても大きなパターン修正を伴う場合、設計スケジュールを遅らせてまでも修正を行うべきか、実際の設計現場では非常に難しい判断をしなければなりません。
例えば、回路基板設計におけるEMC 設計の有名なルールとして信号ラインの”GND 跨ぎ禁止” 、” 電源跨ぎ禁止” があります。このルールを守れないとEMC ルールチェッカーでは” 跨ぎ” を生じている箇所を指示してEMCリスク”高”を警告します。しかし、4 層基板などでは、通常2 層目をGND 層、3 層目を電源層とするので、4 層目の長い信号ラインは必ず”GND 跨ぎ” や” 電源跨ぎ” が生じます。もし、このルールを回避出来なければ、4 層基板を試作してはいけないのでしょうか?
実は、信号ラインの”GND 跨ぎ” や” 電源跨ぎ”が あってもEMC 設計としてリスク回避可能なパターニング方法があります。かつて私が依頼した回路基板CADの 設計者は、それに気付いていたのかどうかはわかりませんが、そのパターニングを回路基板に実施しており、その回路基板ではEMI の問題は起こりませんでした。たまにEMC 関係の方で、そういった跨ぎの箇所でコンデンサを追加してGND や電源パターンを交流短絡する方法を紹介したりしていますが、そんなことをする必要は全くありません。詳細については当社のWD 提案の中でのセミナーで解説いたします。
セミナーでは、個々の回路基板のCAD 作成時にEMC 設計(デザインルール)を個々の回路基板ごとに回路設計者やEMC 担当者が回路基板設計者にCAD を依頼する時に作業指示書(リスト)を作成することを提案します。その作業指示書があれば、CAD 作成上で実施すべきEMC 設計が回路基板設計者にとって明確になり、また出来上がったCAD の検図を行う際に回路設計者やEMC 担当者にとって検図のチェック箇所の対象が明確になります。(尚昨今では、回路図と基板デザインとの回路の対応(LVS )や基板デザインの製造に関わるデザインルールチェック(DRC )は、CAD システム側から自動でチェックしているので検図の対象では無いでしょう。)また、そういった回路基板のCAD 作成・検図に関する作業指示書が残されていれば、後工程で実機のEMC 試験時問題が生じた際、現場のEMC 担当者にとって問題解決のためにその作業指示書が大いに役立つでしょう。
EMC チェックツールを導入したものの、結局設計の現場で使われなくなる状況をいくつか目にしてきて、本当に役立つ回路基板でのEMC 設計とは何か、を私は模索してきました。現在、回路基板(配線基板・プリント基板)でのEMC 設計をいかに実践していくかをご検討中の方々に、是非当社のWD をご提案したいと考えております。
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