22. EMC対策、グラウンド(GND)に関わるイメージに御用心!

当ホームページでは、“”EMC設計はGND強化!“ って~なんの強化なの?”““GNDが揺れている”、って何ッ?“などで、EMC対策の現場の担当者が困った末に行き着く、分かったようで、よく分からないGNDに関係する考え方について解説してきました。よく分からない”とは、“では具体的にどうすればいいのか?”が思いつかない、という意味であって、現場の担当者はノイズという何かザワザワしたイメージから上記のような考え方を思い描いていたのかもしれません。

上記のGNDに関わる考え方以外にも、私が現役時代にEMC対策の現場の担当者やまたその関係者からよく耳にした考え方として下記の様なものがありました。(勿論、それ以外にも沢山ありましたが、、、)

①電源GNDパターンから信号GNDへのノイズが染み出し/流れ出している。(水の様に?)

②GND電極パターンを介してノイズが信号ライン間を伝搬する。(クロストーク的なものか?)

③電源配線パターンはノイズで汚染されている。GNDでカバーするべき。

④GNDパターンは面積が広い程インダクタンスが小さいなり理想に近づく・・・

⑤GNDパターンを広くすることにより不要輻射が低減する。(・・・GND強化的なものか?)

これらは私が思うに、実際の基板の配線パターン(図面や実物)を担当者が目視した時にその見た目からイメージしたもの、ではないかと考えています。しかしながら、EMC関係の書籍等でもそういった考え方で解説しているのではないか、とご指摘する方もいるでしょう。でも、そういった解説をされる方も実際の見た目からイメージして現象を解説しているだけなのです。なぜなら、それらの現象について実測等で実証したり、回路学的・電磁気学的なアプローチによる解釈をしているわけではないからです。

先ず①、②に関して解説しますと、当ホームページでも何回か述べてきましたが、電源や信号はそれぞれの活線とGNDによって伝送されますが、GND側が共有されていたとしても、異なる活線間は高周波回路学的に極めて高インピーダンスとなりますので、電磁波(ノイズ)が伝達しづらい関係になります。しかし、ライン間結合という現象を考える方もいるかもしれませんが、ライン間の結合度を-20dB以上にするためにはライン同士を極めて近接させて長く配置したり、共振現象を利用するような特殊な配置が必要となり、結合できる帯域も高周波側の狭帯域でしか実現できません。こういった構成は一般的な回路基板では意図せずに構成されてしまうようなパターン構成ではないのです。

③の考え方で仮に電源ラインにノイズがあったとしても、それは電源の活線とGNDの間で伝送しています。仮にその電源ラインの近傍に信号ラインがあったとしても電源側のノイズが信号ライン側に伝搬することは殆ど無いのです。

それでもクロストークが生じているように見える場合があったりします。そのようなときはむしろIC等に電源を供給する電源ラインにおけるパスコンの設定(当ホームページではPD適用)について見直すべきです。デジタル回路はCLKに同期して動作しますから、ICの電源端における電圧変動もCLKに同期して起きやすく、それによりIC内の信号出力バッファーの動作もCLKに同期して不安定となり、出力された信号を基板上の信号ラインで観測した際、その波形にCLKに同期した影響が出ているのが見えたりします。それがライン間のクロストークの様に見えるのです。

④に関しては、マイクロストリップ線路の構成を例に挙げて“理想的にはGNDは線路の断面方向で幅が無限であるのだが、実際にパターニングされるGNDの幅ではGND側がインダクタンスを持ってしまうので、GNDパターン上に電圧分布を生じてしまう、等という説明される方がいますが、それはあくまでイメージであって、その考え方の根底に”GNDは至る所常に電圧が0Vでなければならない“という誤った理解があるように思えます。そもそも電磁波(ノイズ)は波動であるので、活線側の電圧・電流分布に応じてGND側にも電圧・電流分布が生じます。その状況は電磁界Simで確認することができます。また、GNDの幅に関しても対向する活線との距離に依存しますが、ベタパターンのGNDを内層とする多層基板等では活線側の幅に対して2~3倍程度の幅のGNDを考慮すれば十分です。こちらも電磁界Simで確認できます。やはり、電磁波(ノイズ)は活線とGNDとが対になって伝送するものと考えておくべきなのです。詳細につきましては当ホームページの”6. コモンモード電流・リターン電流とEMIの関係、如何なるモデルか?“”7. GNDが関わる機器EMI対策について考えてみる。“”9. ノイズ電流の流れ方。その前に前提のモデルを考えて。“でも解説しております。

⑤の考え方は誤りではないのですが、その背景を④にも関連して解説します。回路基板を設計する際には各配線間にスペースに余裕があるのであればGNDパターンで各種配線相互間の余白部を埋めておくべきです。不要輻射対策として、GNDパターンがノイズをあたかも吸収するような説明をされる方もいますが、それは単なるイメージです。そうではなく、重要なこととして、信号ライン、電源ラインが形成する伝送ラインのインピーダンスを低くできることです。伝送ラインのインピーダンスが低いということは電波工学的には高周波帯の信号(ノイズ)に対し、伝送ラインと空間との間のインピーダンスミスマッチを大きくすることを意味します。即ち、伝送ラインから空間へのノイズ放射を抑制することができるのです。また、電磁気学的な観点として活線側から出る電界成分及び磁界成分が近傍のGND側との狭い空間でそれらの密度を高める(集中する)ようになるので、電磁波(ノイズ)放射への要因が低減するのです。

以上のようなEMC設計におけるGNDの理解を深めたい方は是非当社の“EMC設計MBDでDX! 技術&学術”をご参考にして頂けるとありがたいです。

※関連ページ

  EMC設計はGND強化! って~なんの強化なの?

  “GNDが揺れている”、って何ッ?

  EMC設計 MBDでDX! 技術&学術

  電源ライン設計を革新。PD適用

  PD適用に関する技術資料

  6. コモンモード電流・リターン電流とEMIの関係、如何なるモデルか?

  7. GNDが関わる機器EMI対策について考えてみる。

  9. ノイズ電流の流れ方。その前に前提のモデルを考えて。

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