グランド、特に電子機器・装置で接地されたフレーム(シャーシ)におけるノイズ電流の流れ方に関して、多くのEMC関連書籍や業界誌等ではよく目にするモデルを使ってコモンモード電流として流れることを解説しています。当ホームページにおいても技術解説、“19. グラウンドループ➡ノイズ放射・・・過剰な妄想かも!”の中でも当方の独自の視点で説明してきましたが、もう少し深堀してみます。
EMC関係者の間では図-1にある様に信号源から負荷に向けて伝送線路(活線とGND線)にノーマルモードの電流が流れるときに、その2本の伝送路とシステム(仮想的?)GNDとの間にコモンモードの電流(ノイズ)が発生する、と一般的に解説されています。しかし、この時のノイズ源が2本の伝送路(活線とGND線)とシステムGNDの間に何故生じてしまうのかについては回路学的にも電磁気学的にも明確な説明は付けられない、というのが当方の立場です。
そこで新たな解説モデルを図-2に示したいと考えております。
先ず、システムGNDといったものですが、何処にあるのか、実際の機器・装置を扱っている上では何に該当するのか、極めて不明確です。実際のEMCの課題を考える上では機器・装置の接地されたフレームと考えるべきでしょう。そして、図-1のように信号源から負荷に向けて伝送線路に信号を流す時、信号源と負荷はそれぞれフレームGNDに繋がった状態となります。
このモデルから言えることは、下記となります。
①信号源から伝送線路に信号電流(In)が従来の解説通りノーマルモードとして流れる。
②信号源からは、伝送線路の活線側を通り、負荷の接地端よりフレームGNDを通り信号源の接地端に戻る電流(Ig)も存在する。
③電流Igはフレーム(GND)と同電位となる伝送路のGND線側には流れない。
④よって伝送線路の活線にはIn+Igの電流が流れる。(キルヒホッフの第1法則)
実はこの状況は電磁界Simで確認することができます。また、実際の現場においても伝送路にハーネス等が介在する場合にそのハーネスをフェライトコアに通すことにより不要輻射対策をする場合がありますが、その際に抑制されるのは図-2で示すところの電流Ig(Inには無反応)となり、機器・装置のハーネス及びフレームに流れる電流Igが低減され、電流Igにより生じる不要輻射(EMI)を効果的に低減することができます。
図-2に示す電流Igについては機器・装置の回路部品の実装方法により低減することが可能です。即ち、不要輻射対策(EMI)の設計が可能なのです。それらの詳細につきましては、当社のセミナー及びテキスト“EMC設計 概要~MBD”の中で解説しております。
従って、コモンモード等というちょっとトリッキーなもので説明しなくても現象を説明するのは可能なのです。そもそも、コモンモードとは2つの信号線路(それぞれが信号源とGNDを持つ)がある場合で、2つの信号線路の信号伝送の取り扱いにおいて差動(ディファレンシャル)モードと共有(コモン)モードが定義されるのであって、1つの信号源と伝送路に対して当てはめるべきではないと思っております。
尚、100V等の商用電源を扱う電源回路では、1次側となる商用電源は安全規格及びそれに伴う回路処理の関係で活線2極はそれぞれフローティングとして扱い、その電源回路内で機器・装置のフレームと同電位となるGNDが作られます。このGNDは電源及び機器・装置の安全規格レベルに従ってアースレベルの外部接地を行って使用することになります。この時、1次側の活線2極(線間100V)はそれぞれに機器・装置のGNDに対して電位を持つことになるため1次側の活線2極とGNDとの間に共有(コモン)モード電流が生じます。この活線2極の共有モード電流を低減するために電源回路の1次側にはコモンモードチョーク(ラインフィルタ)を挿入することになります。
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