当ホームページのコンサルブログの記事、“サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して”や“ESD試験(IEC61000-4-2)対策に関する技術資料”のテキストPart-Iの中で2次的放電に関する下記図-1等で解説しておりますが、ESDガンの印加による機器内での2次放電発生の可能性について電磁界Sim(CST Studio Suite LE)を使って検討してみました。
図-1
そのSimモデルは図-2に示すように厚み1mm、幅50mmの金属板を周回させてフレーム(300✕200✕50mm)とし、その周回の起点と終点となる部位に0.1mmのギャップ(空隙)を作っておきます。これは一般的な電子機器の金属フレームを想定し、その金属フレームの一部に電気的な接触が不十分な状態(接触する金属板間での溶接不良とか金属表面上の防錆メッキの酸化による不導通化等)が生じた状況を想定しています。
図-2
この金属フレームに図-2に示す箇所に機器をアースするGND配線を設定し、ESDガンよりESDパルス(基本的にはIEC61000-4-2 で規定された電流パルス)を注入します。ESDガンの設定電圧は4kV(ESD耐性を観るための高めな設定)としています。
図-3はESDガンからのESDパルス注入後1.1ns(所謂ESDパルスの第1ピークの時間帯)におけるフレーム表面上のESD電流の流れる状況を示しています。ESD電流の流れ方の特徴としては、ESDガンの電圧印加時の放電チップの極性によりますが、放電チップ側からフレームのGND端子側に向けて(或いはその逆に)電流は流れていきます。その際、電流は金属フレームのエッジ(縁部)に集中して流れていく傾向があります。これは電流とそれによる磁界成分との関係で、フレームのエッジ周辺の空間で磁界成分が急激な方向転換(⇄のような)を生じるため磁界密度が上昇し、それを補う電流密度の上昇が生じるため、と考えられます。勿論その状況はこのSimでも確認できます。
図-3
このESDパルスが印加された際の上記の0.1mmのギャップに生じる電圧について、図-4に示します。このSimの結果によると、ギャップ間にはESDパルスの印加後50nsの間に7回にわたり300Vを超す電位差が生じていることが分かります。ここで、0.1mmのギャップに300V以上の電位差がかかった時、何が起こるかが問題なのです。
図-4
ここでちょっと火花放電(所謂スパーク)に関する性質について説明します。この火花放電に関しては、パッシェンの法則というものがあり詳細な説明はここでは省きますが、火花放電を生じる際の、空間で対向する電極間の距離(d)とその電極間の電位差(Vs)による電位勾配Vs/dは、空気中では一定になる傾向を示します。良く知られた例として、空気中での1cmの電極間では約30kVで火花放電を生じます。
これを今回のSimに当てはめると、0.1mmのギャップでは電位差300Vを越えると火花放電が発生することになります。今回使用した電磁界シミュレータでは、空間の電磁界を解くためのソルバーであるため、火花放電現象(空間のプラズマ発生)を解析することはできませんが、プラズマが生じる条件が生じているかどうかを観ることはできます。尚、プラズマ(火花放電)が発生すると対向する電極間の電位差は急激に低下します。ESDパルスの場合、nsレベルで電流の放出が終わるので、火花放電で生じたプラズマは数nsしか継続せず消滅します。従って、実際のギャップ間の電位差は図-4で示したように300Vを何回も越えるということは無く、1度超えた後の火花放電発生によりかなりの低電位差まで低減し、それ以降はその低電位差レベルで減衰振動するものと思われます。何故なら火花放電の発生はギャップ間の電位差を解消(所謂リセット)する方向に作用するからです。
ではESDパルス印加時に発生する2次放電が如何に電子機器・装置に不具合を発生させるのか、については今のところ解明できていません。しかしながら、私の現役時代の経験として、ESD試験対策の現場でこの2次放電発生の回避を意図した対策は機器の不具合発生を解消させることができました。
また、(株)ノイズ研究所様が提供されている微小ギャップ放電チップ(通常の放電チップよりも印加する電流振幅波形が大きくなる傾向があります)等はギャップ起因の2次放電は電子機器・装置へのダメージを高めてしまう性質があるのかもしれません。更に、ESD対策としてよく行われるGND強化と称するフレーム等への板金追加やアルミテープ貼り等は、結果的に前述の2次放電発生を回避させているのかもしれません。
2次放電発生とその影響については当ホームページの“ESDシミュレーションに新たなソルバー登場!”でも紹介しておりますが、プラズマ発生に対応したシミュレータにより解析できるものと思われます。尚、今回紹介した電磁界シミュレータによるESD試験のSimの設定方法等については、当社のセミナー“IEC61000-4-2試験対策 Part-II”の中で紹介しております。ご興味のある方は是非お問い合わせください。
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