MBDの活用 ・・・➡現象のメカニズム理解・スキル向上の活動に

最近、自動車メーカーの開発部門におけるMBD (Model Based Development)活用の状況を聞く機会がありました。話題のMBDですが思った以上に開発・設計部門で活用されていることが分かりました。しかしまあ、MBDに関する関係者間での公開フォーラムが行われているというのは、まだまだ先進的な方法であって、本当の活用レベルは想像するしかないものの、カッコよく見せられるレベルにはある、というところなのかもしれませんが、やはりこれからの開発・設計においてMBDはより浸透していくものと確信しました。

ある自動車メーカー様のプレゼンの中で、MBDの開発部門内への浸透にはそれなりの苦労があったようで、今までのやり方に固執する保守的な方々(所謂、抵抗勢力)もいる中、必ずしもスムーズにできたのではないようでした。しかし、一度MBDを使ってみると(ここまで行くのが本当に大変)その有効性、自身の技術力向上に気づきMBD活用をするようになったようでした。このメーカー様はプレゼンされたご本人が部門長としてトップダウン(業務命令でしょうか?)で進められたようでした。さすが先進性のある方向への英断だったと思います。

自動車業界でのMBDの活用は既に個々のモデルが会社間でも流通されているようで、各メーカー様の開発部門におけるコスパ・タイパ(時短)で効果を上げているようでした。

当方が関わるEMC設計へのMBDの適用については、当方の記事“10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!”で既に記載しましたが、ある自動車メーカー様のプレゼンの中で述べられていたことで、私も全く同感である事柄がありました。それは、MBDを活用するためのシミュレーションできるモデルを検討することになりますが、このモデル自体を検討することは、現象のメカニズムを真剣に考える必要があるので、結果として担当者の現象に対する理解力・スキルを確実に向上させることができる、ということです。

更に、そういった理解力・スキルが開発・設計プロセスにおいて共通性があるということを見いだせれば、その情報・知識を部門内において共有できるようになり、そのプロセスにおける生産性を向上させることができる、ということです。即ち、ある技術者がある機種で苦労して検討した課題をモデル化しておけば、他の機種で似た課題を他の担当者が遭遇した際に、そのモデルを使って苦労することなく検討することができるといった効果です。

現場のEMC対策を経験してきて、強く感じたことは“現場のEMC担当者が理解できるレベルの範囲でしかその対策はできない”、ということです。やはり、真のEMC設計・対策を実践することは、“その各担当者の理解力・スキルを向上させること”、なのです。MBDを適用させていくことは、担当者レベル(高価なシミュレータをオペレートする専門的レベルは必要ない)で行えるので、各担当者の理解力・スキルを向上させる活動となるのです。

当社はユーザーの皆様にEMC設計でのMBDの考え方をご紹介して参ります。是非ご検討の程よろしくお願い申し上げます。

関連文献

10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

MBD、EMC設計を革新

DX時代のイノベーション

ESDシミュレーションに新たなソルバー登場!

ESDガンを使ったESD試験(IEC61000-4-2)に関するシミュレーションに関しては、タイムドメイン(トランジェント)を使った電磁界シミュレータにより電流・電圧の状況を可視化できることをいくつかのシミュレータベンダーより紹介されています。また、私も現役時代に被試験機に対してSimによる可視化を行ってきました。但し、そのシミュレーションはESDガンを被試験機のフレーム(通常はGNDに接続)に接触させる接触放電試験向けであって、気中放電試験を対象としたものではありませんでした。

そこで接触放電と気中放電で何が違うかというと、先ず接触放電試験ではIEC61000-4-2の規定に準じたESDの電流波形(規定されたファラデーゲージで観測)を被試験機のフレーム等に直接印加する形式ですので、ESDガンによる試験環境を電気回路学と電磁気学の知識を駆使してモデル化すればトランジェント系の電磁界シミュレータでSimすることができます。それに対して、気中放電はESDガンのチップ先端と被試験機のフレーム等の間の小空間(ギャップ)を設定してそのギャップで火花放電を起こしてESDの電流を印加する形式となります。この時の火花放電をシミュレータに取り込むために電気回路学とか電磁気学を適用してのそのモデル化は困難だったのです。

火花放電にはいろいろな特徴がありますが、根源的にはプラズマ現象で生じているため物性物理学的な要素を持ちます。それに伴う電気的な性質として、

①ギャップが特定の電圧差に達するとプラズマ(火花放電)が生成し、(パッシェンの法則)

②ギャップの電気抵抗は無限大から略0に変化します。(ギャップ・陽光柱は定電流特性)

③発生プラズマには継続できる時間(nsレベル)があり、

④前述のギャップの電圧差(放電開始電圧)よりも多少低い電圧差まで継続します。(続流現象)

⑤当然のことながらプラズマが消滅するとギャップ間の電気抵抗は略0から無限大に変化します。

かつて、とあるシミュレータベンダーからこのギャップに抵抗モデルを適用することにより気中放電をシミュレートできるとの提案がありました。しかし上記①~⑤の事柄をシミュレートするのは無理ではないかと思われました。

しかし、最近EMC・ノイズ対策技術展を見学しまして、ESDの新種のシミュレーションソルバーが提案されているのをたまたま目にしました。

詳細についてはよく分からないのですが前述のギャップ空間にプラズマに関する物理的な連立方程式を適用しモデル化して、プラズマ発生をシミュレートさせた、とのこと。等価回路の適用等という無茶な方法ではなく、本質的なプラズマ現象を適用した点は“サスガ!”と感じました。説明員の話によると計算結果は完全ではないもののパッシェンの法則に従うという。すばらしい!

そのシミュレーションの簡単なデモを展示会のブースで見させてもらいましたが、かなり期待できる気がしました。ただ、火花放電が起きそうな箇所に先ほどのプラズマを計算するための物理的空間を適用し、それ以外の空間には、電磁界空間を適用するという形式になるため、適用先は限定されるかもしれませんが、例えば気中放電試験で得られた結果に対する解析のためには極めてよいと思われました。

当社はESD試験対策について当社のHPの記事、“ESD対策、スキャナツールの解析は有効?”の中でも記載しておりますが、ESDガン印加による2次的火花放電の発生を疑うことを紹介しております。将にこの可視化検討Simとして、有効なツールになり、新たな知見が得られるものと思われました。

このようなESD試験検討後の対策に関して有効な施策の例を当方のIEC61000-4-2(Part-II)とセミナーの中で解説しております。是非ご参考にして頂きたいです。

関連ページ・・・こちらもご覧ください。

27. ESD試験時の2次放電発生の予見をsimで確認・・・これが不具合原因!

ESD対策、スキャナツールの解析は有効?

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”4. ESD及び静電気による機器・装置の不具合解析に当社のESD2

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空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?

サージ関連試験での不具合対策は試験パルス印加による2次放電発生も勘案して

今年も梅雨の時期となり、EMC試験の現場では試験環境の湿度は高くなりがちではないかと思います。静電気、放電といった言葉を聞くと“空気の乾燥”が原因と考える方が多いと思います。それは自然界における静電気現象として正しいのですが、EMS(イミュニティ試験)としての放電・サージ関連の試験は実は湿度が高い方が機器・装置にとって不具合発生のリスクが高まります。(詳細については当方のIEC61000(Part-I)及びコンサルブログ“空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?”の中で解説しております。ご興味のある方はそちらを参考にしてください。)

この辺が、ESD試験が実際のESD現象とは異なるメカニズムである反証となるのですが、でもまあESD試験をパスすることが開発機器を一般市場に出すためのルール(規格)として必要になるので、試験をパスさせるための対策作業が必要になる訳です。

かつて私もESD試験の現場で原因のよく分からない不具合発生とその対策に結構苦しめられた経験があります。その当時はESD試験に関する原理やメカニズム等を全く理解していなかったため、何か機器・装置にそれらしい対策を施してひたすらESDガンの引き金を引いておりました。当然のことながら対策が上手く行かず暗礁に乗り上げて、対策が行き詰まる状況になったりしました。

ただ、ESDパルスの印加と不具合発生に関してパルス印加による機器・装置内での2次放電発生の関係に気づいてからは不具合発生の対策方針を立てやすくなりました。この2次放電の発生は、対策環境の湿度が高くなると発生しやすくなる傾向にあります。少なくともESD試験の湿度範囲(相対湿度 30~60%)で、できれば低めの湿度で行うべきです。大概、ESD対策時の担当者はESDガンの設定電圧や打ち込み回数・頻度を高めに設定して行うでしょうから、湿度を低めの状態で試験を行っても機器・装置の耐ESD性能の評価に問題は無いでしょう。

尚、ESD試験対策として有効な施策の例については、当方のIEC61000(Part-II)の中(セミナー)で解説しております。是非参考にして頂きたいです。

この時期のESD試験を行うシールドルームの壁面等は冷房等により結露が生じ易い状態になっていないでしょうか?もし結露が生じるような状態でしたら是非、試験環境の湿度を気にして頂き機器・装置のESD試験対策をやって頂きたいです。

関連ページ・・・こちらもご覧ください。

27. ESD試験時の2次放電発生の予見をsimで確認・・・これが不具合原因!

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ESDシミュレーションに新たなソルバー登場!

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空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?

企業技術者のリスキリング・・・EMC設計も是非!

昨今、日本国政府による中高年企業人(新しいことにトライする機会がなかった方々)向けにリスキリング(re-skilling)を支援する施策が行われています。

私の現役の頃にはそんな支援は当然ありませんでしたが、担当していた技術(特に高周波関連)は技術トレンドが結構早く変化していたので、自分が見出した特許技術も数年後に陳腐化するという経験を目の当たりにしていました。そんな現場にいましたので、担当した技術の現場も転職を含めて結構変わり、それぞれの新たな仕事に合わせた知識・技術の習得(シミュレーション利用)をやってきました。まあ今風に言うところのリスキリングを当たり前にやっておりました。

また、特に企業のエレキ技術者にとっては未踏の領域(フロンティア)等は殆どなく、先駆の技術者によって殆どのエレキの領域は開拓されており、その知識・ノウハウは多くの文献(技術報告書等)で紹介されているので、自分にとって新たな分野・領域に進む際にはそれらを事前(又は業務を進めながら)に調べておくことが新たな仕事を進める上で非常に役立ちました。

しかしながら、かつての私の周辺にはそういった準備を怠り、勘と経験・耳学問のみで仕事に取り組む輩も居り、当然ながら出せる結果も“やらなくても分かる、金(百万クラス)と時間(週間単位)の無駄遣い”といったものを多々目にしました。中には科学的な立場さえ無視した妄想ばかり言う、“無知の極み”の愚かささえ気づかない輩もいました。(大概こう言う人は声がデカい!責任も取らない!)

昨今のエレキ関係では同じ業務を長く続けることは残念ながら今を生きる技術者にとっては良くないこと(不幸)だと思います。やはり多くの技術が身に付くように多くの技術の現場を経験(リスキリング)すべきです。私の場合、長年担当した高周波技術や実装技術、IC設計技術が現在の当社が紹介しているEMC設計の基盤になっていますし、一見関係がなさそうなプラズマ関係をかつて担当した際に勉強した事柄が現在の当社のESD設計の基盤になっております。更に、それらの設計にシミュレータを適用するというのも今までの経験が活きております。

現在、企業のエレキ技術者として活躍されている方々は、是非多くの領域で新たな仕事にチャレンジ(リスキリング)をして頂き、多くの知識・技術を得て頂きたいと思います。そして、その中で是非EMC関連も経験して頂き、できれば当社のEMC設計のセミナーもご活用して頂きたいです。

新しいEMC設計の考え方、更にDXの方法についてご紹介致します。

*関連ページ

      MBD、EMC設計を革新

チャットGPT 、、、EMC設計に使えるのォ?

EMC設計を昨今流行りのチャットGPTで何か役立てることができるのか?当方も早々チャットGPTをインストールしてEMC設計についていろいろ質問をしてみました。

結論として、基本的にチャットGPTは会話型の検索エンジンですので、ある程度EMCの知識のある方々にとっては“まあ、それなりだな”と思われる回答が返ってきます。しかしもっと専門性の高い知識や斬新なものを期待しているとその期待は裏切られます。ただ、EMC入門者にとってはよい先生になると思われました。

しかしながら、現時点(@2023年4月)ではチャットGPTがバックグランドとしているデータが2021年9月までとなっているため、回答として最新の情報は反映されません。そのため、当社(EMC設計イノベーション.com、開業2022年2月)に関して質問しても“情報はありません”との回答になっています。(・・・・ちょっと悲しい。)

チャットGPTに似たAI検索としてBingのチャット検索(Bingの中で利用可能)も結構使えます。こちらは検索が基本なのでチャットGPTが回答ではより自然な文章で回答してくるのに対し、検索したweb内の文章(解説)を使って回答してくるので、例えば“EMC設計”について問い合わせると、関係するそれぞれのweb内の要旨(正否は別として)を効率的に見ることができます。

また、検索する対象は最新のデータ(といっても検索エンジンにヒットするレベル)なので最新の情報を収集する上で役立ちます。因みに当社関連の情報も反映されています。

EMC設計・対策は対象となる機器や装置によって異なり、またそれぞれのEMC関係に関して製品設計・製造の現場で“上手く行った”こと、“てこずった”ことなどをweb上で公開されることは殆どないでしょう。そのため、検索を基本とした上記のようなAIチャットから実践的なEMC設計・対策の回答を求めることは難しいのではないかと思います。そういったEMC課題に関しては当社のコンテンツを是非ご利用下さい。

しかしながら、今までの検索に比べAIチャット型は効率的に情報を集めることができるので、利用シーンによっては威力を発揮できるものだと思いました。

*関連記事

最新チャットGPT4o、 またEMC設計を聞いてみた

AI、EMC対策にも進出

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