
当ホームページではEMC設計でのシミュレーションツールの利用を提案してきております。その目的はEMC設計を製品設計の初期段階(回路図作成段階)で実践、所謂フロントローディングを行い、製品設計におけるEMC課題の事前対策、試作時の手戻りリスクの回避等によりEMC対策に関わる時間や費用を低減すると言った効果を得ようとするものです。
こうした考え方はEMC関連のツールベンダーの方々も異口同音で提唱されており、それぞれのツール(結構お高い)の売り文句となっています。ただ、こういったEMC関連の設計ツール(シミュレータやチェッカー)利用により得られるEMC設計の費用逓減効果は期待できるものとして、その設計ツールに関わる費用は当然のことながら無視できないものです。
ご存知の方もいると思いますが、設計ツールの導入コストはソフト・ハードを含めると数千万円になる場合があり、年間のライセンス費用も数百万円になったりします。また、専門性の高い(外国製等)ツールになるとやはり有能な専門性のあるオペレータを当てる必要があるので、それに係る人件費も必要になるでしょう。(因みに私が経験したICの設計ツール等は年間のライセンス料は億のレベルでした。)
EMCを担当されている方の中には、そういったお高いツールの導入によって担当している仕事が効率化できることをイメージして会社の上司にツールの利点を熱く説明し、ツール導入に漕ぎ着ける方もいるかもしれません。しかし、実際のEMC課題にそういったツールを適用してみるとイメージしていたよりも導入効果が発揮できないことに気付くかもしれません。そして結局EMC課題へのツール利用の頻度が減り、とりあえず“利用はペンディング”、と言った状況になったりするかもしれません。私はそんな風な現場を見たり聞いたりしました。
そもそも設計におけるシミュレータやチェッカーの適用は、設計の予測であってその背景としてある限られた条件(周波数・時間・空間等)の下でシミュレート可能な各モデルに対して適用可能な計算を行っているので、その条件下においてある程度精度の高い予測ができるのですが、その条件から外れた領域では予想も大きく外れてしまうものなのです。
また、そういったモデルにおいてもEMCにおけるノイズ源などは、インピーダンスや波形・振幅・位相等、測定自体もできないものをノイズ源モデルにしたりします。そのため、そのようなノイズ源モデルから実際の機器のノイズ測定結果をシミュレートすることはできませんし、事実、EMCの実測結果とシミュレーションが一致できたという実際のユーザーの声を聴いたこともありません。業界関係の資料に掲載されているグラフ等では実測値とシミュレーション値の間で10dB程度ずれていても“傾向は一致していた”、などとコメントされたりしています。(私は合っていないといつも思っていますが)対象がノイズなのでその程度でもよい、とか思われるかもしれません。しかし、何か精度よく施策設計(配線設計の修正とか回路素子の設定・選定等)をする上ではあまりにアバウトな情報としか言えません。
更に、どんなに高価なシミュレータを買っても、どんなに厳しいチェッカーを導入しても、そのオペレータや結果を見る関係者に「なぜそのような結果が出るのか」「電磁気学的に何が起きているのか」という本質的な理解がなければ、ツールはただの「お荷物」や「形骸化した儀式」に成り下がります。
そもそも、EMC対策は対象の製品のユーザーに対して提供する価値はほぼありません。従ってそんなところに過剰に費用を掛ける(高価なツールを適用する)ことは製品設計の上で著しくバランスを欠いた設計なのではないかと思われます。
当社は、それぞれのEMCの現場で得られている事象や結果に対してそれらに納得のいく根拠・原因を理解するためのシミュレーション方法や、学術(理論)的な情報を当社のセミナーで提供しております。そういった技術的背景を理解できるようになると結果に対する傾向がつかめるようになり、製品設計の度にいちいちシミュレーションやチェッカーを持ち出さなくても、知識に基づいた賢い設計を適用できるようになれます。寧ろシミュレーションはその設計を確認するためのツールとなるでしょう。
設計の主役はどこまでいっても「人」であり、ツールはそれを補助する道具に過ぎません。道具に投資する前に、まず道具を使う「人」に投資する(教育する)ことこそが、最も手堅く、最もリターンの大きい費用対効果となるでしょう。
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