ループ状配線 ➡ノイズのアンテナは考えすぎ

回路基板のA/W設計において、注意すべき配線設計として“ループ状配線の回避“が挙げられています。このループという言葉の響きだけで中学生の理科で学んだコイル(ループ)から出てくる磁力線をイメージして、ループアンテナができて電波(ノイズ)が空間に放出されることを考える方もいるでしょう。

しかし、上記のコイルやループは本当に電波を受信・送信するアンテナになるでしょうか?

実際に市販されているAM帯のラジオ(526.5kHz~1620kHz)のアンテナはループ(コイル)形状を使ったアンテナです。ただこのループアンテナ、AM帯の波長に比べてかなりコンパクトだと思ったことはないでしょうか?FM帯(47MHz~108MHz)用のループ形状のアンテナもあったりしますが、それに比べても小さい形状になっています。

実は、AM帯のループ形状のアンテナは基本的に受信しかできないアンテナなのです。少しアンテナの知識をお持ちの方なら、アンテナならば受信・送信の双方ができるもの(同一アンテナの相反性)と理解されていると思います。“8. ノイズも電磁波。検出するのはアンテナ?プローブ?”でも説明しましたが、AM帯のループ形状のアンテナは空間の高周波磁界を検出するプローブであって機能としてはコイル(空芯のインダクタ)なのです。AMラジオではこのコイルで受けた高周波磁界で高周波電流を生じさせて、それにつながる同調回路によって目的となる周波数(チャンネル)を選択します。

このAM帯のループ形状のアンテナに無理やり送信周波数を入れようとしても、ループ形状のアンテナからは磁界成分しか形成できないため、“11. ノイズという電磁波。では電磁波とは?(1)”の中でも述べていますが、電波伝搬として必要なTEMモード(電波伝搬方向に対して横側に電界と磁界を形成)を構成することができず、ループ形状のアンテナから電波を放射することはできません。

因みに、テレビ放送のUHF帯(470MHz~770MHz)で利用されているループ八木アンテナのループは磁界の検出ではなく電界を検出するために機能しており、コイルを巻いたループアンテナとは異なる動作原理のアンテナとなっています。(このループはその開口面を飛来電波の磁界成分側に向けて使用することはありません。)

以上のことから、回路基板の配線設計で配線形状が何となくループ形状になっているからと言ってその形状がループアンテナになることはありません。特にベタのGND層が形成された多層基板で配線した形状がループ形状であってもその配線パターンから電波(ノイズ)が放出されることはありません。但し、配線長が波長短縮の影響を加味してノイズ周波数の半端長レベルになるとループ形状等に関係なくノイズ放射のリスクは高まります。このノイズ放射のリスク回避の方法に関して当社の”SD適用(実践編)“の中で解説しております。

A/W設計の注意事項として“ループ配線を避ける”というものは所謂イメージです。そんなことよりもEMC設計実践のためにもっと注意を払わなければならないA/W設計事項があります。当社の“WD”ではEMC設計上必要とするA/W設計事項とそれを基板設計に反映させるための方法をご紹介しています。

是非、当社のPDを含めて、SD、WDをご検討ください。

“GNDが揺れている”、って何ッ?

機器のEMI(不要輻射)の対策の現場で、観測されるノイズのレベルが規制値以下になかなか下がらず、どう対策すべきか苦闘しているときに現場の担当者がよく口にするフレーズで、“機器のGND(機器の金属フレームを指す場合も)が揺れているのでは?“があります。

何気なく口にするこのフレーズ。では実際にGND電極・構造物にどんなことが起きているのか考えたことがあるでしょうか?

思いつきそうなことを下記に列挙してみました。

①GND電極の至る所で異なる電圧が発生している。(水面が波立ったイメージ?)

②GND電位の構造物の特定箇所(端部とか中央部)の電圧が±の電位で変動(振動)している。

③ノイズがGND電位の構造物にノッテ(?)いる。(憑依するイメージ?)

④GND電位の構造物がアンテナとなってノイズを放射している。

・・・・

などGND電極におけるノイズに関係した電圧について思いを巡らし、その電圧が電波(放射ノイズ)になると考えられているようです。そもそもその考え方の根底にあるのは、GND(いわゆるよいGND)の電位は常に0Vであって、それが構造物であっても至る所0Vであるという考え方があるためではないかと思います。

市販のEMCのハウツー本等では信号・電源のGND、フレームGND、システムGND等を定義して、より概念が高位(?)のシステムGNDの電位は0Vであるので、信号・電源のGND、フレームGNDはシステムGNDに対して電位差を持たないようにGND電極の電位を設計すれば放射ノイズを低減できると解説しています。(GND電位絶対説?)

理想的にはそうなのかもしれませんが、実際の機器の設計においては、信号・電源のGNDは回路基板内に形成することになります。フレーム(金属)についてはフレームに回路基板を装着・固定するために回路基板のGND電極と電気的に接続(ESD耐性や電気安全規格の関係)させるため、GND電位にします。しかしながら、システムGNDは機器の内部には存在しません。仮にEMIを測定する電波暗室の床面がそれに当たるとしても、その電波暗室の中でしか成り立たないものになります。

ではGND電極は0Vとなる電位をもつものなのでしょうか?

上記の①、②に関しては当方の技術解説<9. ノイズ電流の流れ方。その前に前提のモデルを考えて。>でも説明していますが、DC・ACに関わらず電気・電力は正負ニ極により伝送されます。そのニ極の間において正負一対の電荷が伝導していきます。電荷があるということは電位がある(0Vではない)ことを意味します。信号・電源ライン(活線)の電位は同一箇所・同一時間のGND電極の電位に対するもの(電位差)で、信号源(電源)の電圧レベルが維持されるように、GND電極の電位はその活線側に合わせて変動しています。よって0Vをキープするものではないのです。GND電位を0Vとするのはあくまで“仮定で”とか“相対的に”といった前提から設定したものなのです。

③については、上記の説明の如く、GND電極だけの単一極のみで電気・電力が流れ込むことはなく、設計者が積極的にGND電極へノイズが結合するような構造を作らない限りフレームのGND電極にノイズが“ノル”ことはないと考えられます。ただまあ、相当に運悪く電気的結合構造が偶然できてしまうという状況は全くないとは言えないかもしれませんが。

④に関しては、EMIの主要因として考えるのは難しく、フレームのGNDや回路基板のGND、更には回路基板間を電気的に接続するハーネスがある場合は、それらがEMIに対して複雑な影響を与えます。こういったEMI対策検討として、放射されるノイズの偏波特性(水平&垂直)をよく見てみることは意味があります。偏波はノイズの放射器となってしまった構造物・形態に関するヒントを与えてくれる場合があるからです。フレームがアンテナになるような場合は回路基板やハーネスと関係(電気的・構造的:“EMC設計 MBDでDX! 技術&学術”で解説)があり、そちらを先ずよく観てみるべきでしょう。仮にフレームがアンテナになっていたとして、製品の外観を形作るフレームを試作が進んでいる段階でその構造・構成を変えることは製品設計~出荷プロセスの中では極めてリスキーです。実施できないEMI対策でしょう。

いづれにしても、“GNDが揺れている”と思ったところでEMIの課題が解決する訳ではありません。課題解決のための適切な知識を持って対策することが重要です。

当方が解説しております、PD、SD、WDにおいてはフレームGND、システムGND等の考え方は必要ありません。あえて否定するものではありませんが、“特に考える必要はない”といったところでしょう。実機によるEMI測定・対策する前の段階でEMIリスクを低減できます。是非ご検討ください。

*関連ページ

22. EMC対策、グラウンド(GND)に関わるイメージに要注意!

16. GND-Via その配置間隔にルールは無い

EMC設計はGND強化! って~なんの強化なの?

7. GNDが関わる機器EMI対策につて考えてみる。

19. グランドループ➡ノイズ放射・・・過剰な妄想かも!

21. 機器・装置間の接続ケーブル・・・シールド線(GND)は両端接続が基本!

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EMC設計と言いますと、PI/SI/EMCの検討と言いますが...

本ブログに訪れて頂いた方々は既に多くのEMCのエキスパートの方々のセミナーでEMC設計を行うためにPI/SI/EMCの検討することを見たり、聞いたりしていることでしょう。しかし、この検討のEMC設計に対する可能性と効果を認めつつも、実際の機器・装置の設計・試作を行う段階でこの検討を実施されている技術者の方々は少ないのではないでしょうか?

PI/SI/EMCの検討に最適化されたツール(PCソフト)はいくつも出回っており、そのツールに設計する機器・装置の回路条件・実装条件を入れ込んで行けばEMC設計ができるはずと考え、そのツール(結構高価なものですが)を設計部門に導入して専任のオペレータも張り付けてEMC設計の検討を始めるのですが、結局設計部門では使われなくなっていく、と言った状態ではないでしょうか。

例えばPI。設計対象のIC(例えばSOC)の電源端子から見た電源ラインのインピーダンス(インプットインピーダンス:既に高周波回路理論が分からないと意味が分からない概念です)をSOCの電源端子の(負荷)インピーダンス(ターゲットインピーダンス)よりも低く設定させる検討となります。

インプットインピーダンス/ターゲットインピーダンスと、分かりにくい概念を使用しますが、基本的にはΩ単位で表現されるので、評価としては2つのインピーダンス値を比較するだけです。しかし、ターゲットインピーダンスなるものは、ICベンダー側がICユーザー側に提供されるべきものなのですが、大概の場合提供されません。またICの設計側としても算出に当たり理論的な扱いは理解できても実際のICから導出するのは難しい(面倒?)なものなのです。(但し、安全係数を掛けた適当に低い値は設定できます。)

また、ICベンダーとしては提供するICを安定動作できるために推奨回路(リファレンス)を用意しており、ユーザー側はそれを深く検討することなくそのリファレンス通りの回路を基板に実装します。結局、PI検討の出番がないのです。
これに対して、当方のPD適用はインピーダンスという概念は必要ありません。回路図設計段階で基板間を接続するケーブル経由の電源ラインを含めて検討対象のIC電源端部に設定すべきパスコンの条件を最適化できます。またこの最適化は電源ライン起因で放射されるノイズ(不要輻射)のエネルギーレベルに合わせて行うことができます。また、ICベンダー提供のリファレンス回路におけるパスコンの個数の削減検討にも利用できます。

次にSIですが、現在市販されているSIツールで行うことはSOCや各種ドライバーIC、メモリーIC等の信号受信端における信号波形の確認、更には信号波形のアイパターンの確認と言った信号波形品質をSimで確認することになります。昨今のGbpsレベルの高速インターフェースに関しては信号ラインを含めて事前にSIを確認しておくことは必須だと思いますが、10MHzレベルのCMOSロジックの信号に関して事前にSIを検討するケースは少ないのではないかと思います。実はSIと不要輻射(EMI)の関係について詳細に解説している資料・文献は無いのです。

これに対して、当方のSD適用では回路図設計段階で基板間を接続するケーブル経由の信号ラインを含めて検討する方法及びSim結果の波形からEMIに関わるデータが得られると共にその対策方法も提供しその状況をSimで確認できます。
最後にEMCですが、基本的には製造する回路基板(プリント基板)のA/W設計に対するルールチェックであり、ルールチェッカー(PCツール)を適用することになります。このルールチェッカーに関する問題点は当方のホームページ内の” 5. 回路基板におけるEMC設計の実践と検図。当社のWDを提案。”で紹介しています。チェッカーツールとしては想定されるNG項目を並び立てることがメインの機能なのでそれにまじめにお付き合いするか、無視するかはユーザー側に委ねられるので設計現場の都合からチェッカーを使う意義が問われ、結局使われなくなります。

これに対して、当方のWDではEMC設計として実施すべきA/W設計項目を規定して、その実施状況をチェックするやり方です。規定したA/W設計項目はCAD作業の際の作業指示書として作成してCAD作業者が実施したことをチェックし、このチェックの状況を基板CADの受け入れ側がチェックします。これにより基板のA/W設計段階で想定されるEMC設計上の懸念事項に対応することができます。(もしそれ以外にもEMC課題があったとしても、想定外の事柄を事前に盛り込むことは不可能です。)

もし、これらからEMC設計を検討されるようでしたら、是非当社のPDSDWDも検討候補の一つにして頂けるとありがたいです。

※関連ページ

     2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用。

     3. 信号ラインのダンピング抵抗、当社のSD適用のSimモデルで抵抗値を設定。

     5. 回路基板におけるEMC設計の実践と検図。当社のWDを提案。

     公開技術資料

     MBD、EMC設計を革新

     MBDの活用 ・・・➡現象のメカニズム理解・スキル向上の活動に

EMC設計はGND強化! って~なんの強化なの?

回路基板の構成で、例えば4層基板の第2層目をベタGNDパターンにするのは定石のなようなものであって、これをもって、強化(限られたパターン領域において支配的?某国の領土のように?)というのであれば正しいでしょう。ベタGND即ちGND側電極の共用化は、回路基板内の各活線(信号/電源)を目的のポイント間で配線する際に、回路基板のいたる所で対向極(GND)電位を確保できるという点で、配線設計の上での消費面積を小さくできる点でも優れています。

よって、多層基板内のベタGNDは基板設計上不可欠な設計方法と言えます。また、配線パターンとなる活線側から出る(or入る)電気力線が常に対向するGNDベタパターンに向かう形態(モード)になるので、EMCの観点からも好ましい構成と言えます。電磁界シミュレーションで確認できますが、活線パターンとGNDパターンの対向している領域(絶縁層)に電界が集中し、対向した各電極の表面側にそれぞれの電流(流れ方は反平行)が集中します。GND側がベタパターンであってもその電流分布が広がることはありません。

しかしながら、EMCに関するハウツー系の解説では

①ノイズの逃す先のGND

②GNDのインピーダンス(インダクタンス)を低く抑える/GND間での電位差がノイズに

と言ったGND-ノイズに関する記述が沢山あります。しかしながらこれらはイメージであって、誰もそれを測定したり計算したりして定量的に確認したことが無いものなのです。

そもそも、回路基板上の電気は2極(⊕と⊖/活線とGND)の電極によって2極間の電位差として伝達されます。(詳しくはこちらページで!)また、GND電極側をリターンパスとよく記述されていますが、高周波(交流)信号が伝達される際は見かけ上活線側がGND側に対する高周波電流のリターンになる瞬間(位相)もあるわけです。このリターン(直流・交流を問わず)の考え方は慣用的なものであってEMC関係の初心者向けに分かり易く説明するための所謂“EMC解説モデル”によるものなのです。

この“EMC解説モデル”によりGNDに関して上記の①②の解説が行われています。実際EMI対策の現場でGNDに関わる施策により不要輻射の傾向が変化する状況を経験するとGNDに対する信望(救いの神)の様な思いを持つようになるのかもしれません。

しかし、上記の①に関しては実際のGNDパターンは電源ラインや信号ラインにおける対向極でしかないので、ノイズを吸収したり、貯めたり、電源側に戻したりする機能はありません。

また、②に関しても高周波回路を勉強された方ならわかると思いますが、2極の伝送路では高周波の波動性から異なる箇所での活線とGND間の電圧/電流(同一時間で)は異なりますが電力としては同一なので、一定値の負荷の端子においては必要とする電圧/電流を確保することができます。従って、回路基板上の大概の2極の伝送路では送受信間で必要とする電圧のやり取りが可能です。(但し、極端に伝送路が長い場合や、周波数が1GHzを超える信号等の場合は他に考慮すべき事柄が出てきます。)

“EMC解説モデル”は“あくまでそのように説明できる”、と言ったものなので計算式は無く、またあったとしても代入する数値を特定できなかったりするため、シミュレーションツールに適用することはできません。あくまで定性的な説明となります。

当社のEMC設計は学術的な背景に基づいたモデルを用いているので、計算やシミュレーションを適用でき、対象となるEMC設計に関して定量的な検証・解析をすることができます。即ち、EMC設計ツールとして使うことができるのです。

是非ご検討、宜しくお願いします。

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    22. EMC対策、グラウンド(GND)に関わるイメージに要注意!

     “GNDが揺れている”、って何ッ? 

    16. GND-Via その配置間隔にルールは無い

     7. GNDが関わる機器EMI対策につて考えてみる

    1. LTSPICEシミュレータを使ってEMC設計を行う

    2. ICの電源ライン、パスコン最適化に当社のPD適用。

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    10. EMC設計、レガシー3D-SimからMBD (1D-CAE)へDX!

     電源系30MHz帯ノイズ Sim & 対策

     EMC設計 MBDでDX! 技術&学術

     公開技術資料

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機器・装置/ロボットにトラブル発生!不具合解析に行き詰まったら...

かつて某放送局で放送された高専や大学関係のロボットの競技会(ロボコン)を見ていた時に、大会当日のロボットの調整中に突然制御不能の不具合に陥り、学生達のその場の対処も空しく競技に出場できないシーンがありました。また、別のロボコンの大会でも競技中にそれまで上手く動作していたロボットが突然不具合に陥り競技続行ができなくなるといったシーンもありました。

こういった原因の良く分からない不具合発生は一般的な電子機器(特に可動部を有する機器)においても起こり得ることで、機器設計の現場では把握できず製品を出荷した後お客様の使用現場で発生してクレームになったりします。

こういった不具合は機器設計の現場では再現が難しく、また通常(と思われる)場では全く問題もなく動作し、原因解析をしてみてもよく分からなかったりして、”まあ、取りあえずいいか”という感じで放置されがちです。

一般的な機器設計の現場においては、こういった原因不明な不具合への解析方法に決定打はなく、もし検討するとすれば、誰でも先ず多分原因の仮説をいくつか立てて系統化して(QC手法の特性要因図のような)それらを実測等により各仮説を検証して原因究明する方法をとるでしょう。しかし、この方法の問題点は真因になるもの又はそれに関連する発想・考察が列挙した仮説の中に無ければ時間と手間の無駄となります。

こういった不具合対策関係のセミナーに参加したこともありますが、①機器自身からのノイズ、②他の機器からのノイズ、③周囲環境(作業場)と電源・アース(伝導ノイズの関係)、と言ったところから調査を始めるようですが、ただまあ、よくありがちな先ずノイズを疑うという常套手段のようなものでした。またこれに関連するのですが、私が過去に目にした機器の不具合対策で上記の②に関連したノイズを疑って調べていた同僚がいましたが、それは全く無意味なものでした。仮説という名の単なる思い込みから始めたようですが、そもそもEMC規格を満たして出荷されてきている他の機器が原因になることはまずないからです。

よくわからないノイズの影響を求めて原因の調査をはじめるのも一つの方法かと思いますが、場合によってはESDの影響を考慮することも必要なのでは、と考えています。私の過去の不具合解析でも機器の動作中でのESD(火花放電)の発生を間接的に計測機で観測し、その発生を対策することで不具合を起き無くした(解決した)例が幾つかあります。

特に火花放電はモーターによる可動部を有する機器で起きやすく、その発生メカニズムを理解していると早く不具合原因に行きつけます。私の過去の例では1年以上解決されなかった機器の不具合を1日で解決できたこともあります。

ESDの現象は回路学的なアプローチとは異なり、むしろ物理学的(静電気学・放電工学)な考え方を必要とします。しかし、ESDが原因と考えてESDガンで不具合現象の再現を試みている技術者がいたりしますが、その方法はたいてい不具合解析に失敗します。何故なら、不具合発生時の火花放電とESDガンのそれとは発生メカニズムが全く異なるからです。更に、ESDに関する知識についても一般生活で経験しているレベルにとどまっている人は不具合発生時の大事なサインを見逃します。

原因がよくわからない機器の不具合対策でESDについて調べてみたい方は、当社のセミナー“6.1.静電気に関する理論的解説・メカ設計”はお薦めです。またこのセミナーのテキスト(有料)を当ホームページに掲載する予定ですので、ご利用ください。

関連ページ・・・こちらもご覧ください。

27. ESD試験時の2次放電発生の予見をsimで確認・・・これが不具合原因!

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空気の乾燥はESD(静電気)対策の大敵?

冬場の静電気は誰もが経験するいやな現象でしょう。特にお風呂に入る前の脱衣時に衣類と衣類のこすれで聞こえる”パチパチ”という音(暗いと光も見えます)や、脱いだ衣類がヒトの皮膚に”ゾアー”とした感じを与えるのも嫌な感じです。

”冬は乾燥するから”との思いから”静電気発生”⇐”乾燥(低湿度)が原因”と考える方も多いでしょう。確かに湿度、即ち大気中の水蒸気量が静電気の発生に影響します。

ではどう影響するでしょうか?

水蒸気である水分子は水素原子と酸素原子により構成され、水分子全体としては電気的に中性ですが、図に示すように電気的な偏りを持っており極性分子となります。この水分子は大気中に十分にランダムに存在するのではなく、水分子同士の極性(水素結合の引力)によってある程度集団的に存在し、その集団は全体として正、又は負の極性をもちます。

それに対し大気中にある物体はその表面に電位を持つので、その電位に反応して水分子の集団が物体の表面に近づき、物体の表面の電位を下げる作用を示します。これは静電気メーターで物体の表面電位を測定する際、測定する物体の表面に息を吹きかけて測定を行うと測定値が0V側に近づくことで確認できます。

よって、湿度が高い時は上記の作用によりあらゆる物体の表面電位は0V側に変化するので、物体間における各表面の電位の差(電位勾配)も小さくなるので、静電気(火花放電)は発生しにくくなります。逆に、乾燥する(湿度が低い)と、水分子の量が減るので物体の表面電位を下げる作用が小さくなり、物体間の電位勾配が小さくなりづらく、火花放電は発生し易くなります。

それ故、”冬場→乾燥→静電気”は自然の静電気(ESD)発生の正しい関連性です。

しかしその一方で、前述したように水分子は極性分子なので電位勾配を生じさせている物体の表面付近に存在する場合、その物体表面に向かって加速し衝突(スパッタ)します。このスパッタが生じると特に物体が導体である場合は物体内部の電子が大気に飛び出し、物体表面付近にある気体分子をイオン化させ、プラズマを生じ、これが火花放電になります。

ESD試験であるIEC61000-4-2の気中放電試験ではESDガンと被試験機器の間の火花放電は湿度が高い時程発生し易くなり、被試験機器の不具合を発生させます。この現象については多くのEMC関係の方々が経験しているでしょう。これは、IEC61000-4-2の試験が自然の静電気ではなく、ESDガンの電源よりESDガンのガン先(放電チップ)と被試験機器の筐体(GND)に回路形態で安定的に電力(電圧・電流)を供給しているためで、放電チップと被試験機器のGNDの電位勾配は周囲の湿度に関係なく安定的に印加され、それにより水分子は放電チップ或いは被試験機器のGNDに向かって加速・衝突を起こし、火花放電を発生させます。そのため、水分子の数が増せば(湿度が高ければ)火花放電を発生させ易くなります。

私見ですが、IEC61000-4-2の気中放電の試験は試験条件として湿度の範囲は30~60%とされているので、できるだけ30%側ですべきだと考えています。その根拠としては、

①試験条件を満たして試験を行っていること、

②気中放電の試験は機器の実際の使用状態で生じるESDとはかなり異なっていること、

③試験ではESDガンの設定電圧を高め(1.2~1.5倍)にして試験を行っていること、

などからです。

機器の気中放電試験の未検討は許されませんが、ESDガンによる気中放電は被試験機器にとっては厳しい試験であり、機器へのダメージが大きく、試験により破損に至る場合もあります。ESD課題の対策作業の際、過多なESDガンパルスの印加により被試験機器の破損に気づかず対策作業が泥沼化するケースもあります。

是非ESDの試験、特に気中放電の試験は湿度にも注意を払って行ってください。

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DX時代のイノベーション

”2021年はDX元年だったんだ”、と何年か後に思い起こす時が来るでしょうか?

今年私が参加した展示会やセミナーで”DX”をよく目にしました。それは産業界だけで無く、省庁も関わって今の日本のあらゆる業界を立て直そうとする動き(働き方改革の意味も含んで)になっていることも知りました。

このDX、特にメーカーにおける生産技術や製造現場で10年位前(DXという言葉は無い)頃から幾つかのメーカーで独自に当時のIT技術を使って生産プロセスの改善・改革の取り組みが始められ、数年前からはビッグデータが扱える、所謂デジタル環境が整い、更にAI技術の適用も相まって将に“変革”と言えるレベルの成果が出せるようになり、このデジタル技術利用による生産プロセス変革をDXとして注目されるようになりました。こういった取り組みをしてこなかった、又はできなかった多くのメーカーにとっては衝撃だったでしょう。

デジタル技術によるプロセス変革「DX」、この考え方を産業界のあらゆる分野に適用していこう、と考えるのが自然の流れでしょう。AI技術を営業や管理の現場、更には開発の場に適用した事例の紹介も増えてきました。DXの端緒として”レガシー(今までの仕事のし方)からの脱却”と解されることもあります。しかしながら、そもそもDXは何のためにするのか?それは間違いなく自分の会社・従業員の未来を幸せ(Well-being)にさせるためのものなのです。そうでなければやる意味はありません。デジタル技術を利用することで、仕事量の低減(生産性の向上)し、新たな価値創造が提供できるフロンティアはまだまだ沢山あると思います。そしてそれは職場の仕事マインドを向上させていくでしょう。

さて、当ブログとしてEMC関係におけるDX、当社としては皆様にMBDを使ったEMC設計をご紹介しています。EMC関係では既に多くのITツールが提案されているものの、決定打というべきものは無いのではないかと思います。そういった状況の中、当社はシンプルで短時間での検討可能、且つ低コストでできるMBD(1D-EDA)によるEMC設計を提案しております。是非ご検討をいただきたいと思います。

当社が掲げる”イノベーション”、DXの時代にあっては”新結合”と解されます。簡単に言えば、今までのやり方(思考)と今までとは違う新たなやり方(思考)を結合させることで今までに無い新たな価値を生み、そしてそれが我々にとって”普通のこと”になっていくことです。

「EMC設計イノベーション」皆様、よろしくお願い申し上げます。

関連ページ EMC設計 MBDでDX! 技術&学術

MBD、EMC設計を革新

MBD(Model Based Development (Designとも))は1D-CAE (Computer Added Engineering)の利用を基本として、新たな開発・設計手法として注目されています。最近はModelica(言語)での応用が広がり、特に物理現象を表現するモデルの構築で使われています。電気回路の計算では皆様ご存知のSPICEがありますが、最近はModelicaと連携してSimできる環境を提供するツールも出てきています。

Modelica利用によるホットな話題としては、機器の熱設計です。熱設計においても従来からの3Dモデルによる解析が主な方法でしたが、Modelica環境を使ってMBDで解析することが試みられています。当社においても、EMC設計を3D-Sim(電磁界解析)からSPICEを使ったMBDへの移行を推進しており、ここでそれらのメリット・デメリットを下記にまとめてみました。

やはり、EMC設計においてはMBDが圧倒的に良いのです。まだ知名度が低いという所が劣っている点でしょうか?MBDとして当社が提供するPD適用SD適用を是非ご検討頂きたいです。

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     MBDの活用 ・・・➡現象のメカニズム理解・スキル向上の活動に

ESD対策、スキャナツールの解析は有効?

IEC61000-4-2におけるESD試験対策のツールとして、ESDガンによる電流パルス印加時の回路基板上の電流分布等を観測するツールが紹介されています。測定法の概要は下記の通り。

①回路基板の特定の部位にESDガンで電流パルスを印加して、その際の回路基板上の各位置の近傍上空から電流をプロービングする方法で1回のパルス印加で1カ所の測定を繰り返して、電流分布図を作成。

②回路基板上の各位置の近傍上空にプローブを置き、ESDガンが与えると想定した電磁界パルスをプローブから回路基板上へ放射し、その時の回路動作の不具合を観測する方法で1回の印加で1カ所の不具合状況を測定することを繰り返してESD耐性の分布図を作成。

何れの方法も回路を動作させた状態でESD試験の状況を観測できるので、電磁界Simを使った方法よりも実際に近い状況を観測でき、ESD試験で不具合が生じた際の解析ツールとして期待できると思われます。

ただ、気になる点としてそれぞれの測定に際してESD試験時に発生した機器の不具合を再現できているのか、ということです。再現できているのであれば、解析の意味があり、それによる施策は実際のESD試験の不具合対策となるでしょう。しかし、再現できない場合や異なる不具合発生となっている場合は観測自体が無駄になる可能性があります。

更に、上記の測定システムを扱うベンダーとしては、測定結果からとるべき対策方法について具体的なアドバイスがあるわけでは無いので(様々なシチュエーションがあるので仕方がないかもしれない)ユーザーそれぞれが判断して施策することになります。

しかしながら、私の今までのESD対策の経験の中では、上記してきた方法では解析できない(と思われる)原因があると考えています。それは、ESDガンの印加により発生する2次的な火花放電の発生です。そのメカニズムについては公開技術資料に掲載したIEC61000-4-2試験対策(Part-I)”で紹介しています。またその対策方法については当社の” 6.2.IEC61000-4-2試験対策” のセミナーの中で解説いたします。

一般的にESD試験と聞くと、回路基板上に実装したデバイスの端子部に規格よりも大きな電圧が襲い掛かるというイメージを持たれるでしょう。実際にそういう現象が多いのかもしれません。しかし、前述した2次的な火花放電の発生を考慮すると、回路基板上に実装したデバイスの端子部に電圧が掛からなくなるという現象も生じる可能性があります。こういったことも当社の” 6.2.IEC61000-4-2試験対策” のセミナーの中で解説いたします。

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EMC設計を回路基板のA/W設計に反映させるWD

EMC設計において回路基板(配線基板・プリント基板)のA/W(アートワーク)設計は極めて重要な要素となります。しかし、大手のセットメーカーではこのA/W設計を外注(外の会社)に依頼しているケースが殆どです。このプロセスで依頼する側がとれるEMC設計のA/W設計への反映の方策としては、外部に依頼する際に作成する設計指示書を外注先に出すことと、納入したA/WのCADデータに対してEMCチェッカーツールを適用する方法です。

EMCチェッカーを使った際の課題については” 5. 回路基板におけるEMC設計の実践と検図。当社のWDを提案。”の中で紹介しています。

問題は、A/W設計は極めて重要なEMC設計の要素なのに外注先に期待されることは、決まった形状の回路基板のスペース内に指定した回路図の配線を入れ込むこと、できるだけ短納期であること、作業コストがリーゾナブルであること、が優先されてしまうことです。そのため、A/W設計は外注先のCAD作業者の腕任せになり、CAD作業者のEMCに関する認識度の差により、出来上がった回路基板のEMC性能にも差が出てきます。

A/W設計を依頼する側はEMC設計に関して設計指示書等に記載する場合もありますが、これも外注に依頼する担当者のEMCに関する認識度の差により、設計指示書の記載内容に差(前任者のコピペレベルも)が出るでしょう。

当社のWDの考え方を、公開技術資料”WD Part-I”の中に記載しています。A/W設計を依頼する側が実施したいEMC設計(WDのデザインルール)をCAD作業者に実施してもらうプロセスを紹介しています。

EMC設計の趣旨を回路基板に反映させるために、A/W設計を依頼する側が明確なEMC設計のデザインルールの適用事項と適用する場所をCAD作業者に明示して、その実施状況をA/W設計を依頼した側が確認することが最も簡単で効果的にEMC設計を回路基板のA/W設計に反映できる方法と考えております。これはA/W設計を依頼されたCAD作業者にとっても依頼側のデザイン方針を確認できるので作業に着手し易くなるものと思われます。

そこでWDで示されるデザインルールは、ということになりますが“3.WD(Wiring Board Design for EMI)提案”のセミナーの中で紹介いたします。例として、EMCチェッカーではEMI対策として禁止されている“GND跨ぎ”について、WDのデザインルールでは“GND跨ぎ”があってもEMIを悪化させないデザイン方法を紹介しています。