EMI(機器の不要輻射)の課題を解析する一つの方法として、機器の動作している回路基板の上空を電界又は磁界プローブで電磁場を測定する近傍界スキャンという方法があります。この方法は1990年代位からEMIの解析装置(近傍界スキャナ)として販売されるようになり、かつてのエレショー等で発表された当時は今まで見ることのできなかったノイズを初めて可視化することを可能としたので、EMC技術者にとっては将に画期的な装置でした。
この近傍界スキャナの測定結果はノイズの周波数の状況を画像で回路基板に重ねて表示してくれるため、回路基板上でのノイズの分布状況や、信号ライン等からの伝送状況等を分かりやすく観測することができました。こういったデモを見せられたセットメーカーのEMC技術者は、もしノイズが見えるようになったらより良いEMI対策ができると希望を膨らませ、近傍界スキャナの導入を上司に強く頼み込んだことでしょう。
近傍界スキャナの導入をEMI対策に上手く取り入れられたEMC技術者もいたでしょう。しかし、そうはいかなかったEMC技術者もいたのではないでしょうか。むしろ、そうはいかなかったEMC技術者の方が多いのではないでしょうか。
何故なら、近傍界スキャナの測定結果の解釈と測定後のアクションについてはEMC技術者が自身の見識で判断しなくてはならない、という問題があるからです。
先ず、近傍界スキャナの測定結果の解釈についてですが、近傍界という意味をよく理解する必要があります。即ち、電磁波は放射源からλ/2π(約1/6波長)未満の距離では近傍界で、λ/2πを超える距離において遠方界となり、この遠方界において電磁波として伝搬します。それに対し近傍界は誘導界とも呼ばれ、コンデンサやコイル、電極パターン等の周囲の電界・磁界が主として観測される領域であって電磁波ではないのです。もし、基板とプローブの距離を5cm程度の距離で測定しているとしたら、1GHz(波長30cm)の以上の周波数は電磁波になりますが、MHz帯は電磁波ではないということになります。
人によっては近傍界が遠方界へと変化していくものと思われている方もいるようですが、コンデンサやコイル、電極パターン等は、遠方界を持たず近傍界のみを形成しています。コンデンサやコイル、電極パターン等が容易にアンテナにならないのはそれらが遠方界となる電磁界要素を持たないからです。
そのため、近傍界スキャナで近傍界となるノイズ周波数帯を測定してもそれはただ電磁界の分布状況を示しているだけで、ノイズの放射源を示しているわけではないのです。例えば、ノイズ源に関係するICの周辺とかそのICに接続する信号ラインにはノイズの周波数の集中が見られます。しかしそれはある意味当たり前(ノイズ成分を含む信号を扱っている)のことであって測定しなくても予測がつくものです。
次にその測定結果を基に新たなEMI対策として何をするか?ということになるのですが、測定しなくても予測がつく結果となっていたら次なる対策を立てるのはかなり難しいでしょう。そもそも予想が付く位なら先に対策を打っているでしょう。
ではEMI対策現場で近傍界スキャナでの測定を行うメリットは何なのでしょうか?
機器の回路基板はそれを支持する金属の筐体(フレーム)があり、更に基板間を接続する幾つかのケーブルがある状態で動作しています。その時の電磁界の分布は回路基板単体の動作状態に比べると異なる電磁界分布になることが予想され、そのためノイズの放射要因も複雑になると考えられます。
EMI対策の現場で期待される近傍界スキャナですが、それを使わないで済むような事前のEMC設計に注力すべきです。
事前のEMC設計に向けて当社は”PD適用”、”SD適用”、”WD提案”をユーザー様に向けてご用意しております。是非ご検討ください。
※関連ページ
14. 電磁波における遠方界と近傍界。EMC対策では重要です。